第18話 君の視線の先、僕が映ってない気がして


文化祭の準備室。

展示物の配置図を広げて、

真悠と妃芽が並んで話していた。

妃芽が何か提案して、

真悠が笑って「いいね、それ!」って答える。

その笑顔を見て、

胸が少しだけチクリと痛んだ。

(あの笑顔、俺にはまだ向けられたことないな)

渚はその場にいるのに、

ふたりの会話にうまく入れなかった。

まるで、自分だけ“画面の外”にいるような気がして。

「藤井くん、これ貼ってくれる?」

真悠が声をかけてくれたとき、

渚はちょっとびっくりしてしまった。

「……あ、うん。任せて」

その笑顔は、ちゃんと自分に向けられていた。

でもその直前、妃芽に向けていた笑顔と、

どこかで比べてしまう自分がいた。

(くだらないな、俺……)

でも、止められなかった。

帰り道。

妃芽が先に帰って、

真悠とふたりで歩くことになった。

「展示、けっこう形になってきたね」

「うん。……なんか、楽しいかも、今年の文化祭」

「そっか」

沈黙。

本当は、もっと話したかった。

「真悠さ」

勇気を出して、口を開く。

「今、いちばん仲良い人って誰?」

その質問に、真悠は少しだけ困ったような顔をした。

「……むずかしいなぁ、それ。

 でも……妃芽、かな、やっぱり」

(やっぱり)

そう思った自分が悔しかった。

「じゃあさ、その音無さんのこと、

 “好きな人かも”って思ったこと、ある?」

真悠は驚いたように立ち止まった。

「……なんで、そんなこと聞くの?」

「なんとなく、そんな気がしただけ。

 ごめん、変なこと言ったかも」

「……ううん、ちょっとだけ、考えたことはある」

正直にそう答えてくれたことが、

うれしかった。

でも、それと同時に、

とても悲しかった。

(俺は、あの子の“特別”にはなれないのかもしれない)

帰り道の交差点。

信号が青に変わっても、

渚はすぐに渡らなかった。

「ねぇ、真悠」

「ん?」

「俺って、真悠にとって何番目くらい?」

真悠は目を見開いて、

少しだけ、悲しそうに笑った。

「……そういうの、まだ決められないよ」

その言葉を聞いたとき、

渚は初めて、自分の中の答えを受け入れた。

——たぶん、彼女の物語の“いちばん”にはなれない。

でも、

“そばにいる”ことはできる。

それが、今の自分の精一杯なんだと思った。

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