第15話 それぞれの、届かなかった想い


放課後、吹奏楽の部活を少し早く上がった私は、

体育館の前を通った。

ちょうど部活が終わったタイミングだったのか、

部員たちが次々と帰り支度をしていた。

ふと、目に入った。

背の高い男子。

いつも軽いノリで笑ってた、でも目だけは真剣だった——

「……原くん?」

「おお、真悠ちゃん!? え、久しぶりすぎて声出た」

サッカー部の練習を終えてジャージ姿の原舜聖が笑っていた。

その数秒後。

「あれ?真悠?」

今度は体育館のドアから、バッシュを片手に持った松藤依与吏が顔を出す。

一瞬、時間が止まった。

過去に好きだったふたりと、

今の自分が、まっすぐ向き合う瞬間が来るなんて思わなかった。

公園のベンチで、気まずくも不思議なスリーショットになった。

原くんは缶コーヒーを買ってきてくれて、

依与吏くんは静かに私の話を待ってくれていた。

「なんか……すごいメンツだよね」

原くんが笑う。

「真悠にとっては修羅場?」

「いや……もうそういうのじゃないと思う」

私はそう言って、自分の気持ちを整理し始めた。

「原くんのこと、いいなって思った時期あったよ。

 でも、どこかで“どうせまた誰かに取られる”って思ってて。

 勝手にそう思って、自分から引いてたの」

「俺、真悠のことちゃんと好きだったんだよ?」

「え……」

「でも真悠が俺の前ではずっと“さばさば”してて、

 なんか俺のこと好きじゃないのかなーって思っちゃって。

 自信なくしてた。俺も弱かったんだよね、たぶん」

笑いながらそう言う原くんに、私も自然と笑い返せた。

依与吏くんは、ずっと黙って聞いてたけど、

静かに話し始めた。

「俺さ……妃芽のことがすごく好きすぎて、重くなってたよね」

「うん……それは感じてた」

私は少し申し訳なさそうに笑った。

「でも、真悠と話すときだけは、なんか力が抜けた。

 妃芽を好きなままなのに、真悠といるのが楽だった。

 それってズルいことだよな、ってずっと思ってた」

「……ズルいなんて思ってないよ」

「……え?」

「誰かに寄りかかりたかったのは、私も同じだったし」

依与吏くんの目が、すこし潤んだように見えた。

でもそれは、もう痛みじゃなく、懐かしさのような何かだった。

夕日が沈む頃、3人で並んで歩いた帰り道。

誰かが“誰かの特別”になれなかったとしても。

ちゃんと想っていた日々が嘘じゃなかったって、

今だから、そう思えた。

そして、私のなかでやっと、

“あの恋たち”に静かに蓋が閉じられた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る