第14話 夜だから言えること、夜じゃなきゃ言えないこと


「……でさ、藤井くんってどうなの?」

ベッドに寝転びながら、スマホ越しに聞こえた裕香の声。

その問いかけに、私はちょっとだけ間を置いた。

「んー……やさしいよ?気が合うし、話してて楽だし」

「でも好きとは言わないんだね〜」

華がくすっと笑う。

「ちがうの。ただ、“今までの好き”とはちょっと違う感じなの」

「真悠、さー…」

裕香の声が少し真面目になる。

「好きって感情、誰に対しても同じって思ってない?」

「え?」

「“ドキドキ=恋”じゃないとしたらさ。

 藤井くんに感じてる“安心感”とか“素でいられる感じ”とか、

 それってけっこう貴重なんじゃない?」

「……たしかにね」

私は天井を見つめたまま、ため息をつく。

「じゃあさ、妃芽のことは?」

華がぽつりと口にしたその名前で、

一瞬、空気が止まった気がした。

「……私さ」

私は思わず、口を開いた。

「妃芽が他の子と仲良くしてるだけで、苦しくなるときあるんだよね」

「それって嫉妬ってことでしょ」裕香が即答。

「……うん、でも“友達に対する嫉妬”なのか、“恋の嫉妬”なのか、自分でも分からない」

「どっちでもよくない?」

華が、優しく言う。

「どっちにしても、“好き”って気持ちでしょ。

 だれかのことを、独り占めしたくなる気持ちなんて、自然なことだよ」

3人の通話は、静かな沈黙をはさみながら続いた。

「でも……妃芽にとって私は、

 結局“誰かの恋路の通り道”だっただけなのかなって思っちゃうんだよね」

「それは違う」裕香の声は、はっきりしていた。

「妃芽、真悠のこと気にしてたよ。ずっと。

 “また傷つけたかもしれない”って、落ち込んでたもん」

「……そうなんだ」

「それにさ」

華の声が、ちょっとだけ笑いを含んだ。

「妃芽が“真悠に対して素直じゃない”ときの顔、

 あれ完全に“恋してる顔”だよ。……あたし、わかるもん」

「……やめてよ、そういうの」

私は顔を真っ赤にしながらスマホにうつる自分を見た。

夜の通話って、不思議だ。

顔が見えないからこそ、

言えることがある。

見えない分、つながってる実感が強くなる。

私たちはその夜、

「この気持ちはなんだろうね」って言いながら、

“まだ名前のついてない想い”に、少しだけ手を伸ばしてみた。

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