第12話 私はまた、置いていかれるのかもしれない


私は“選ばれる側”だと思っていた。

可愛いって言われる。

告白もされる。

誰かの“好き”に囲まれている。

でも、

そのすべてが、ちゃんと「私だけに向けられていた」わけじゃなかった。

春。

真悠と同じクラスになった。

3年生の新しい教室で、最初に目が合ったとき

なんとなく、距離が遠くなっていることを感じた。

その原因は、分かってた。

「私のせい」だってことも。

でも、正直に言うと、私はまだあの子にちゃんと謝っていない。

謝る資格があるのかも、よくわからない。

だって私は、

“奪ったつもりなんてなかった”から。

でも、そうじゃなかったのかもしれない。

ある日の昼休み、私は教室の窓側で

真悠が藤井渚と一緒に笑っている姿を見た。

(あんな顔、私の前じゃもう見せてくれない)

渚は明るい。ちょっと変わってるけど、

気を遣わないでいいタイプの男の子だ。

真悠の隣にいても、気まずそうにしないし、

真悠も“構えた顔”をしていなかった。

(……本音、話せてるのかな)

そう思った瞬間、自分の胸がざわついた。

私は、

真悠の“本音を話せる場所”だったはずなのに。

あの子の気持ちが、

私じゃない人に、やわらかくほどけていくのが見えた気がした。

私はふと、1年前の真悠を思い出した。

吹奏楽の練習後、2人でコンビニに行って、から揚げを分け合った帰り道。

「妃芽って、誰かに嫌われるってこと、あるの?」

「うーん、わかんない。でもたぶん、あると思うよ」

「私はね、妃芽のこと……すきだよ」

あのとき、

私がちゃんと“真悠のことを大事に思ってる”って、返せていればよかった。

そうすれば、

少しは違う未来になっていたのかな。

今さら、遅いけど。

でも私は、まだ“終わった”とは思いたくなかった。

その日の放課後、帰り道の信号待ちで、

真悠とばったり会った。

「……妃芽」

「……渚くんと、楽しそうだったね」

「うん、ちょっと気が合う感じ」

「そっか……いいと思う。あの子、真悠のこと、ちゃんと見てる感じする」

言葉が、胸の奥でぐるぐるした。

(ああ私、今、“応援してるふり”してるんだ)

「……でも」

私は言いかけて、やめた。

“でも、私はまだ真悠のことが好き”

なんて、言えるわけなかった。

信号が青に変わった。

そのまま2人で歩き出したけど、少しの間、沈黙が続いた。

でも、その沈黙が、

私たちの“まだ終わっていない距離”を確かに教えてくれた。

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