第2話 追い出せない

「異世界だぁ? いや、この世界出身と言われても信じられないが……」


 目の前にいるのは紛れもない人間。何ならとんでもない美少女だ。部屋に入る日光を反射する、雪のような銀髪。エアコンの風に吹かれてふわりと揺れた。


 美しく、そして、この世のものとは思えない。どこから現れたかもわからない少女。

 日常が終わっていく。急速にそんな予感が膨らんできた。


「さっきから気になっとったが、あの白い箱はなんじゃ? 風が出とるようじゃが、通風孔か?」


 何を言ってるんだこいつは。エアコンをご存じでない??


 本当に異世界から来たっていうのか?


「エアコンだよ、見え透いた嘘はよせ。雑なロールプレイしやがって」


「おぬし……いい加減信じたらどうじゃ? わしがドアを開けて律儀に入ってきたと思うか? 違うじゃろ、どこからともなく現れた。それはどうして? 簡単な話、わしが魔法を使ったからじゃ」


 あきれたような表情で俺に言い聞かせる。


 魔法。信じたくないといえば噓になる。


「何言ってんだかわかんねーよ。子供はさっさと帰った帰った。もう来んなよ、お菓子くれるおじさんに付いて行っちゃだめだぞ」


「やかましい! 子ども扱いするでないわ! 200歳も年下のくせに生意気じゃぞ」


「そこからして信じられねーって言ってんだ」


「……ったく仕方ないのう。疑り深い男は嫌われるぞ?」


「この状況で疑わない方がよっぽど嫌われるだろ」


 200歳だの魔法だの、ポンと言われて信じるほどおめでたい頭はしていない。


 あくまで懐疑的な俺に業を煮やしたのか、大きなため息をつくメロー。


「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶと言う。おぬしも魔法を経験するとよい」


 そう言うと、メローは大きく深呼吸を始めた。まぶたを閉じながら、何度か呼吸を繰り返したのち、カッと目を開いた。


「天罰の雷よ、穿て」


 人差し指を壁に向け、呪文らしき言葉を紡ぐ。


 言い終わるや否や、小さな指が純白に輝き――


 雷が落ちたような轟音。


 壁にはぽっかりと穴が、煙を上げて空いている。


 ここは角部屋のため、そこから外の風景が見える。道路と雑草。


 わあ、きれいな景色。


「何してくれてんだお前ぇ!!」


「どうじゃ、すごいじゃろ?」


「すごいよ、すごいバカだよ! 人んちの壁に穴開けるバカがいるかよ!?」


「バカバカうるさいのじゃ、証拠を見せろと言うから見せたのに、若者の考えることはわからんのう」


「これがわかんねーなら異常者だよ。見ろこの穴。一人くらいならくぐれそうじゃねーか」


「出入りが楽になってよかったのう、さすがわしじゃ」


「ぶっ飛ばすぞクソガキ」


 どうすんだこれ、いや、どうすんだこれ。


 口はわざわいの元。そんなことわざを体で味わった夏の一日だった。


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土・日曜日の21時頃に投稿予定です。


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