草と木の精霊姉妹 メルバラとドリアード
@kfujiwarajp2000
第一章 アジャンダルムの人形
第一章 アジャンダルムの人形 /第1話 木の精霊
足の長い若手ダンサーのアユが舞台から履けてきた。アユは古川あゆ美のステージネーム。金髪の髪の上から黄緑色に染め、少し赤で数カ所ポイントカラーを入れている。緑色の髪の隙間に金色が混ざり、鮮やかだった。
「髪の色、綺麗でカッコいいですよ!」
シャッターを切りながら、なぎさはいつものように屈託なく相手の懐に飛び込み会話しながら被写体の表情を作りベストショットを狙う。
「このごといっしょだろ、ほら」
アユが指さした先には鏡の前に置かれたアジャンタム(観葉植物)の鉢がある
「ほら、めんこい人形が座ってるだろ、それとおそろいなんだー」
鉢の縁には緑の髪をした少女の人形が腰掛けていた。
「じゃあお人形とツーショット」
なぎさはアユを鉢の横に呼んで人形と顔が並ぶように写真を撮った。
「名前は何て言うの?」
「この子はドリア、て言うんだ」
木の精霊ドリアードの人形なのだと言う。緑色の長い髪は光の当たり具合で黄緑にひかり、途中からカールして絡まり合って靡いている。髪の中には小さい白青赤の花が散らばり、ティンカーベルのような草のワンピースを着ている。顔もそんな感じのおしゃまな女の子だ。背中には蝶々のような薄い色の羽がついていた。それがちょこんと鉢の縁に座っている。
アユはこの髪の色にしてから人気急上昇で、あさくさや関西からも出演依頼が来ている。彼女は東北訛りにコンプレックスがあり、踊りや衣装や化粧で何とか見せようと必死だった。
なぎさはこの業界専門の女性カメラマン。最近劇場と業界のSNS編集担当からの依頼で、ステージで人気の踊り子を撮影していた。
踊り子のアユが秋田から東京に出てきたのは5年前、高校3年の夏に家を出た。
母は祖母と折り合いが悪く出て行ってしまった。祖母が鬼籍に入った後父はスナックの少し若い女性と意気投合し、一緒に暮らし始めた。それをきっかけに、あゆ美は家を出た。
高校の先輩の女性の部屋に転がり込んでおいてもらって、先輩のアドバイスもあり卒業まで地元にいたが、卒業式を待たずに上京した。卒業証書は後から担任に頼んで送ってもらった。
高校卒業の経歴のおかげで、事務員の勤めがあり、それとコンビニ店員のパートの掛け持ちで古い小さなアパートで先の見えない生活を始めていた。
1年半ほどそんな暮らしをしていた時、繁華街でフロアガール募集のチラシを見つけ、時給に惹かれて働き始めたのが2年前のこと。超ミニスカートのワンピで幕の合間に飲み物とスナック類を売っていたが、容姿と朴訥さが気に入られて舞台で踊る踊り子にならないかと誘われ、ステップアップしたのはその半年後だった。元々運動神経が良かったこともあり、踊りも嫌いじゃなかったのですぐに覚えた。今ではすっかり看板の踊り子となった。
あゆ美は子供の頃から友達と地元の山に分け入って、日が暮れるまで遊んでいた。
巨大なブナの木の前に立つと自分も木と一体化する様に感じ、いつまでも一人で立ち尽くした。今は休みの日には明治神宮や新宿御苑などに出かけ、大きな木の前で深呼吸をして故郷を思い出している。劇場の鏡の前にある観葉植物見るだけで気持ちが和む。
人形は木の精霊ドリアードにかけてドリアと呼んで可愛がっている。
あゆ美はふるさとの山で、木の間を駆け抜ける緑色の髪をした女の子を何度か見ている。
その話をするとだれも見たことが無いと言うので、「あれを見るときっといい事があるにちげね」とみんなに話していた。
それでネットで見つけたこの緑色の髪をした緑色の衣装の人形を買って、自分も人形のようにかわいくなりたいといつも思って暮らしている。
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