晴れときどき鳥、のちにお説教が降るでしょう

『シアさんに代わって、私が説明させていただきます。ハンターズギルド迷宮安全課特殊捜査部所属、コールサイン03専属補助員、要するにシアさん専属マネージャーをさせていただいております。浦野真白うらのましろと申します。以後、お見知りおきください』


 真白さんから指示があって、コネクタで私に届いている音声をスピーカーにしろと。

 そうすれば、ドローンのマイクはしっかりと真白さんの声を拾って、配信を通して全世界にその声を届け始めた。

 凛とした、でもちょっと柔らかい声が、十一層草原地帯に響く。


 あと、配信画面の操作を真白さんに任せることにした。

 なんかそういうソフトで配信画面をいじれるみたい。ゲーム実況配信とかの配信画面みたいな感じ、らしい。

 詳しいことはよくわからないので、丸投げだ。


 ぽけーっと岩の上に寝転がった私は、そんな真白さんの声を聞きながら、遠く空を飛んでいる鳥たちを眺めていた。


「ん」


 座っている岩を、握った拳で殴りつける。

 そうすれば、それなりのサイズの小石がいくつか出来上がった。

 十二個。投擲に耐えられそうで、さらに尖っている小石の数だ。


:あの、色々準備されている後ろで特務エージェントさんがなんかされてます

:平然と岩砕いたぞこの娘

:まあ中層以下のハンターなら岩くらい砕けないとね

:なにそれハンターこっわ

:多分深層の岩とか並の装備より遥かに硬いと思う


「…………うん。ばっちり」


 軽くぽんぽんと手の上で転がして跳ねさせて、投げ心地を確認。

 これならいい感じに投げれそうだ。随分と岩を砕くのも慣れたものだ。


 初めて砕いた七年前とかはちょっと大きすぎて投擲には向かない岩ばっかり作ってしまったものだが、最近はそんなことも減ってきている。

 そもそも岩を砕く機会が少なくなってきているってのもあるが。


「すぅ……えいっ」


 座ったまま、振りかぶって、ちょっとマナを小石に込めて。

 そのまま全身を使って、投擲。

 破裂音に近い音を鳴らしながら、空気を切るように飛んでいった小石が向かう先は、鳥たちの先頭を飛んでいるちょっと大きな鳥さんの通る先。


 ちょっと尾の羽根が綺麗なそいつに向けて投げられた小石は、飛んでいく中で段々と赤熱し、ただ私のマナを込められたそれが崩れることはなく。


 投げる瞬間にちょっと工夫してスピンさせられているそれは、遥か広い空に小さく羽根で作られた花を咲かさせた。

 ひらひらと舞う羽根が、風に吹かれてどこかに飛んでいく。

 どこかへと飛んでいく羽根とは裏腹に、撃ち抜かれた鳥さんは、動かないままに地面へと。


「やった。命中」


:空飛んでたらえいっで撃ち抜かれる鳥さんかわいそう……

:なんか思ったよりも感性が幼い

:俺らがアリを気まぐれに潰す感覚で十一層の魔物を潰すな

:真面目な説明始まりそうなのにワイプの映像がちょっと濃すぎるかも


 リーダーの導きを失った鳥たちは、先ほどまで綺麗に整っていた隊列を乱し、何事かとぐるぐると飛び回ったのち、下手人たる私の存在を認知したらしい。

 数は十八。小石だけでは足りなさそうだ。


「ふふ、おいで」


 残り十一発。どうせだし、魔術は禁じよう。

 空からの攻撃に、どれだけ自分が素早く綺麗に対処できるか、力試しだ。


『…………ええー現在ダンジョンの中には、数えきれないほどの量のダンジョン街が存在しております。それらは実質的なセーフティポイントとして、ダンジョンの中に暮らす人々や、マナ資源を求めてフィールドに出るハンター達に、広く親しまれています」


:続けるの!?無視して続けるの!?

:今の数分で浦野さんがどれだけシアちゃんに振り回されたのか分かった気がする

:昔っから周り振り回す子ではあるから……

:十一層階層主フロアガーディアン討伐作戦の時とか、ね……


 なんかコメントが流れているけど、ちょっと流石に縛りを課しながらの戦闘中にそれらをしっかり認識してる暇なんてないので、若干目に入った物だけ意識にとどめて、あとはほとんど流す。


 左から二羽。右から三羽。対処は簡単、斬り落とすだけ。

 座ったままでも、ある程度戦える。随分と私も成長しているのかもしれない。


 成長の実感というのは、さらなる成長の火種だ。

 こうして自分が前に進んでいる実感というのは自信となって蓄積されていき、さらなる成長のための心の燃料にもなる。

 定期的に確認するのだって、重要なことだ。

 流石に舐めプする必要はないと思うけど。


『ですが、ダンジョン街が存在しているのは、十層まで。それも十層ともなると、一層と比較した際にその数は、約二十分の一にも減少します。これは、十層がそれだけ危険な場所で、開拓するだけの余裕がないことに起因します』


:ふむふむ

:配信とかエンタメになってて忘れられてるけど、危険地帯なのよね

:中層ハンターだけど、十層とか考えたくもない

:一層ですら一般人は装備が無いと平気で死ぬからな……

:なおブラウスにロングスカートでハンター始めた白髪の女の子

:その子ハンター界の外れ値でバグだから気にしちゃいけない


 残弾七発。四発のうち一発は外してしまった。

 岩をいい感じに砕く技術は伸びてても、投擲技術は伸びていなかったみたい。

 ちょっと残念。


 一発減った。今度は命中。


『そして深層、つまり十一層以降には、現在ダンジョン街と呼べるものが存在しておりません。野営地と呼べるものはありますが、セーフティポイントと呼べるだけの安全性は保障されておらず、基本的なインフラも整っていません。キャンプが集まっているくらいの物です』


 ぽいぽい。今度も二発とも命中。

 挟み撃ちしてきた鳥たちのうち落とせたのは二羽だけなので、あと十一羽。


:あの、そろそろこっちも無視するの辛くなってきたんですけど

:超絶技巧が常に画面右上に映りながらの真面目な説明

:あまりにも異質すぎるだろ

:浦野さんの胃薬代を投げてあげたい

:なんでこんな貧乏くじ引いちゃったんだ浦野さん


『……………………ギルド日本支部はそんな現状を危惧し、第十一層にダンジョン街を作ることを計画しました。今回シアさんが行うのは、そんな十一層ダンジョン街が完成するまでに起こりうる、様々な問題への対処となります。そして現役の深層ハンターとして、深層に作られるダンジョン街へ要望を出し、深層ハンターの拠点としてのダンジョン街としていくことが、シアさんの主な役目となります。このダンジョン街を起点に、深層ハンターによる戦力を固め、他の場所にも街を作る予定がギルドでは立てられており、その火種でもあるこの計画は非常に重要なものになります』


 なんか真白さんが頑張って説明してる。

 残り六羽。慣れてきたこともあって、処理スピードが速くなっていっている。

 流石に十一層の魔物相手じゃ、私の敵にもならないのかもしれない。


 強くなったものだ。私も。


:つまり、街に欲しいものを提案しながら、街を守っていく

:あとは細々したお手伝いが、シアちゃんのお仕事

:めっちゃ大事な計画だから、協力を仰ぐためにも配信で説明

:ついでに他ハンターにも方針を説明して

:シアちゃんには定期的に広告塔としての役割も果たしてもらう、と

:お前ら息合いすぎだろ


『ギルドの方から、他の深層ハンターの方々にも協力を要請しております。またこの計画を一般の方々や企業へも周知したいため、広告的な意味でも、所謂ダンジョン配信者の方々には積極的に配信していただくつもりです。いうなれば、大型コラボ企画みたいなものですね』


:……十一層で?

:いやうん。思ったけども

:でも深層ハンター達の絡みが見たいか見たくないかで言えば?

:めっちゃ見たい


 残り二羽。残弾ゼロ。

 やっぱり、最後は己の剣のみが信じられるもの。

 投擲物なんて飾りだ。強いし使い勝手もいいけど、成長の実感は己の振るう武器で魔物を打ち倒した瞬間が一番大きく感じられる。


『というわけで、みなさまにも拡散をお願いしたく、こうして説明の場を設けさせていただきました。ギルドの方から直接お声がけしておりませんハンターのみなさまも、ぜひぜひこのプロジェクトにご参加いただきたく存じます。また支援などをお考えいただいた企業様は、ハンターズギルド迷宮安全課までお問い合わせください』


 残りゼロ羽。つまり全滅。ふふん。

 十一層を攻略していた当初はちょっとこいつらに苦戦させられたこともあったけど、今じゃ魔術を封じてすら倒せるようになってしまった。


 強くなったな、私も。


:だいぶ得意気やね

:現役十一層時代はこいつらに苦戦させられまくってたから

:一回腕も持ってかれてたんだっけ?


 コメントを見る。

 ちょうど、真白さんの説明も終わったみたい。

 まぁよく聞いてなかったけど、多分ちゃんと説明してくれてたのだろう。


 あとから私はアーカイブを見返せば問題ない。

 なんて、思ってた時。


『シアさんには、あとで個人的に“お話”がございますので、予定の方を空けておくよう、お願いしますね?』


「あの、真白さん。なんか怒って──」


『お願いしますね???』


「は、はい…………」



 なんか、不味かったっぽい。

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