第20話 掃除屋で、インターン…!!
夏。
セミの声がうるさいほど響く昼下がり。
あんこと園田のV活動も落ち着いてきた、そんな季節。
あんこは、汗をぬぐいながらスマホの通知を見て、目を見開いた。
「……は?」
そのメッセージは、夜街からだった。
内容はたった一言。
『秘密結社 AssaX、3人目、見つけた。事務所集合』
「……なんでまた、こんなときに…」
思わず声が漏れたが、返信を返す間もなく、同じく園田にも同じメッセージが届いていた。
そして二人は、涼しさとは無縁な東京の暑さのなか、重い足取りで暗殺事務所に向かった。
事務所の扉を開け、目に映り込んだ“その3人目”に、あんこは瞬間的に構えた。
「な、な、な、なんで、あんたがここにいるのよ!!」
あんこは息を呑んだ。
あの筋肉質な腕。
獣のように鋭い目つき。
そして全身を覆う異様な鱗の気配。
そう。そこにいたのは――
しろさぎ高校が誇った、伝説の暗殺者。
シャチ女だった。
シャチ女は、かすかに伏し目がちに言った。
「……仕事だから」
あんこの背中を、ぞわりと冷たい汗が流れ落ちた。
園田も、目を見開いて口をぱくぱくさせていた。
その隣で腕を組んでいたのは、スーツ姿の夜街。
「私が、見つけてきたから」
さらりと、当然のように言い放った。
「いやいやいやいや!!こいつヤバいでしょ!? 私たち殺されかけたんだけど!?」
あんこが叫ぶと、意外にも助け舟を出したのは、社長の絢瀬だった。
「おい、こいつはダメだろ……さすがに。普通に考えて無理あるって。お前ら死ぬかと思ったろ?」
「ですよね! あのとき、状況が少しでも変わってたら、私たちのほうが殺されてたと思いますよ!」
あんこがうんうんと必死に頷いた。
しかし、夜街は飄々としたままだった。
「強いし、かわいいし、声もかわいいし。問題ないでしょ?」
「いや問題しかないでしょ!?」
「それに――おっぱいも大きいし」
夜街は、シャチ女の胸元に手を伸ばし、ぐいっと持ち上げて見せた。
「何してんだお前えええええ!」
あんこが椅子からずっこけたのと同時に、絢瀬がこめかみを押さえて呻いた。
「ぐぬぬ……でも……確かに……くっ……」
「そこ譲るなよ!?」
絢瀬はしばらく悩んだ末、ようやく顔を上げた。
「おい。もし裏切ったら……今度こそ再起不能にするからな」
その鋭い眼光に、あんこが再びずっこけた。
シャチ女は、無表情のまま絢瀬をじっと見つめて、淡々と言った。
「……お金、ちゃんと払ってくれるなら。裏切らない」
「それはまぁ、うち、ちゃんと資金あるから、未払いはないと思うが……」
絢瀬は呻きながら、夜街を睨んだ。
「わかった……だが、正規雇用じゃない。インターンだ。試用期間ってことで。それだけは譲れないからな!」
その条件を聞いて、夜街はにやりと笑った。
「了解。そしたら決定ね。ニジライブには、私から言っておくから」
あんこと園田は、信じられないという目で夜街を見ていた。
だが、あの冷静沈着で、裏切りを嫌う夜街がここまで推すのなら――
よほどの理由があるのかもしれなかった。
「次の一人、探してくる」
沈黙が落ちる事務所の中、夜街はそう言い残して、あんこたちに背を向けた。
「え……」
あんこは、思わずその背中に声をかけていた。
「なんで……そんなに焦って集めてるんですか? 私たち、三人でもやっていけるでしょ? これ以上、無理に増やさなくても……」
夜街は、その言葉に足を止めた。
だが、振り返らなかった。
壁に影を落としながら、低く、短く答えた。
「ダメ……それじゃ、目的を達成できないから」
そのまま、足音を響かせて出ていった。
無機質なドアの音が、ピシャリと静寂を裂いた。
あんこは、閉ざされたドアを見つめていた。
その影に――何か、自分の知らない大きな思惑が潜んでいるのを感じて。
「……」
何も言えなかった。
何も、考えが及ばなかった。
気がつけば、事務所内には気まずい沈黙が残されていた。
「……なあ」
唐突に、社長・絢瀬の声が響いた。
「お前、名前は?」
その視線の先には――全身鱗に覆われた、かつての敵。
椅子に無言で座る、シャチ女がいた。
彼女はしばし目を閉じたまま、わずかに口を動かした。
「……名前は、ない」
「……はぁ~~~……っ!!!?」
絢瀬は頭を抱え、あられもなく叫んだ。
「こいつ一体、何者なんだよ!! 前の敵で、いきなり仲間になって、名前もないって……設定盛り過ぎだろ!!」
あんこはそのやり取りに、苦笑いを浮かべながらも、どこか引っかかっていた。
夜街の言った"目的"――それが、何なのか。
その答えが出るとき、このチームは変わってしまう気がしてならなかった。
かくして、この夏、秘密結社AssaXに――シャチ女が加わった。
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