その翡翠き彷徨い【第59話 ただ一人だけ】

七海ポルカ

第1話




「このあたりは俺もあまり知らない土地だから出発する前に少し様子を見て来るよ」



 メリクが言った。

 宿の外で大剣をいつものように磨いていたエドアルトは手を止める。

「俺も行きましょうか?」

「いや大丈夫。君はここで待っててくれるかな。レインもいるし無理はさせたくない。出来るだけ楽な道を探して来るよ」

 少年はぽかんとしている。

「?」

「あ……いえ……メリクってあんまりそういうの気にしないでどんな道でも行っちゃう人だと思ってたから。下見なんて今までしたこと無かったのに……やっぱりあの子は特別なんですね」

 メリクは苦笑する。

「それは……女の子に崖上りさせるわけにはいかないだろ」

「俺には四十度の斜面上らせたじゃないですか……」

「エドは頑張ってついて来てくれるからね。気を遣わずにルートを進めるから有り難いよ」

 少年はその一言でころっと満面の笑みになった。

「本当ですか? 俺、足手まといになってなかったですか?」

「うん。なってない。だから俺が戻るまでレインの面倒見ててあげてくれるかい?」

「了解ですメリク! 心配しないで行って来て下さい!」

「うん。じゃあ行って来るよ。――ああ、それとねエド。レインはああ見えて行動力があるから。ちゃんと見ていてあげるんだよ」

「? はい!」

 メリクの付け足した言葉は深くは考えず、少年は元気良く返事をしたのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る