7月7日。晴れ、時々くもり。

新佐名ハローズ

7月7日。晴れ、時々くもり。

 

 

 ニーナ・サジェストン。女。127歳。種族は『そら翔けるウサギ』と称される星海兎せいかいと族。親しみやすかったり逆に気難しかったりと極端な性格に分かれると言われている中では付き合いやすい部類だと自分では思っている。

 薄茶褐色の肌に灰白かいはく色の髪、頭の頂きからピンと生えた長くて細い二つの獣耳ケモミミは、基本薄茶褐色な毛色に対してその尖った先の部分だけが黒い。

 尻尾は一応あるものの、短く本能的に触られるのは嫌なので服の下にしまえる場合は隠し、必要に応じて尻尾周辺の光を屈折させて消している。無意識レベルの常時発動だが、弱点を嫌う星海兎族の大抵の者は息を吸うように行使できるらしい。

 二足歩行するウサギではなく、ヒト寄りのウサ耳持ち。基本スレンダーだがある所にはしっかり付いている(何がとは言わない)。見た目通りに聴覚に優れ、素早い身のこなしが長所だが反面パワー不足になりがちである。星海兎族はその欠点を脳筋思考と戦闘技術あるいは独自魔術インチキでねじ伏せる。



 アルムナファ・スヤッパラー・マチャラ。オス。33歳。通称アル。とある場所で発見した生物の詳細情報データベースを元に復活させた個体。高い知能を有し会話も可能。パッと見は一抱えぐらいはあるアッシュグレーの丸い毛むくじゃら。隠れて見えないが小さい耳と角があり、頑張ればレーザーのようなものも出せるがここぞという時以外は疲れるから嫌らしい。その時はどんな時かって? 惚れた女を守る時さ……。ちなみに名前はニーナがランダムでそれっぽい名前を生成させたものからテキトーにつけている。

 

 

 

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「肝心な時になんか曇ってっし、まだ7月の頭なのにやたらあちぃし、もうダメだこりゃ……」


 拠点にしている豆腐建築ましかくハウスの庭先と彼女が規定している場所で、星海兎せいかいと族であるニーナ・サジェストンは薄茶褐色のウサ耳をぴこぴこさせながら簡易的なかまどの上にある鍋の中身を時折かき混ぜては様子を確かめていた。


 鍋は厚手で熱源はとろ火……ではなく、鍋自体が発熱している。竈に見えるものもそれっぽい雰囲気を出しているただの台である。


 更に言うなら料理をするだけならば屋内の調理設備でやったほうが楽な上に、彼女自身は隣に置かれたテーブルのつまみをさかなにちびちびんでいたりする。


 薄茶褐色の肌に灰白かいはく色の髪、薄茶褐色の二つの獣耳ケモミミは想像するウサギのそれそのもの。


 少しだけ酔っているようにも見えるが、近づけば即座に命は無いと思わせるカミソリのような雰囲気を放つ美女である。……普段は。


 今は動きやすそうな短パンにキャミソールという気の抜けっぷり。微かに髪などが揺れているのは、身体全体を包むように適温の空気を纏っているからである。暑いんちゃうんかい。


 そもそも暑い最中さなかに煮込み料理を作っていたり、彼女の行動原理は他者から見ればしっちゃかめっちゃかにしか思えないことが多い。


 基本自由人な星海兎族だからと言ってしまえば大抵が片付いてしまうこともあり、ニーナは気にも留めていないのだが。


『今日は確かタナバタだったか? 盛り上がり過ぎてロクに仕事しなくなった夫婦がヨメさんの親父の偉いカミサマにキレられて年イチしか会えない罰を喰らっちまったってやつ。そんなのただの自業自得だろうにな』


 やたらと渋い脳内ボイスで語りかけてきたのは、ニーナの隣に置かれた一人用のカウンターテーブル……に鎮座するアッシュグレーの丸い毛むくじゃら。一抱えもありそうなそれは時折ぽよぽよと揺れたりして、そこはかとない存在感を放ってはいるものの。いかんせんその存在自体が謎である。


 その名はアルムナファ・スヤッパラー・マチャラ。一応オス。とある場所で見つけた詳細情報データベースを元にニーナが復活させた謎生物である。


「古い伝承だかんね。戒めの文句として作られた都合の良いハナシ……ってか、何かにつけてお祭りしたかっただけじゃない?」


『丁度、今みたいにな』


「あ~、言えてんね~」



 たまには空を見上げて、瞬く星々に思いをはせる。そんな日があっても、良いんじゃない?

 

 

 

 

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7月7日。晴れ、時々くもり。 新佐名ハローズ @Niisana_Hellos

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