造語が秀逸

読んでいて少しドキッとしました。

電話の向こうから聞こえてくる一方的な語りという手法が、まず秀逸でしょう。
読者は会話の相手と同じ立場に置かれ、断片的に明かされる情報に引き込まれていきます。
最初は個人的な出来事として語られる話が、やがて予想もしない展開を見せていく構成は、古典的なホラーの王道を現代的に翻案した見事な手腕です。
作者の言語感覚の鋭さは、「書淫」という造語にも現れています。
この言葉が持つ多層的な意味は、物語の核心に深く関わってきます。
生成AIという現代的なツールを題材に選んだ発想も新鮮で、時代の不安を的確に捉えています。
関西弁混じりの自然な会話体は、リアリティを生むと同時に、緊張感に親しみやすさという奇妙な温度感を与えています。
「桝峪ますたに」という名前の響きの可笑しさも印象的で、エロゲや同人文化への言及は、特定の読者層には強い既視感を与えました。
語り手の饒舌な説明の中に、じわじわと不穏さが忍び込んでくる手法もなかなかうまい。
読み進めるうちに、最初は他人事だった話が、いつの間にか身近な脅威として迫ってくる、そんな現代的な恐怖の本質を見事に描き出しています。
デジタル時代の新しい依存と、それが引き起こす極限状況をテーマにした、現代ホラーの注目作と言えるのではないでしょうか。
ちなみに私は造語を作るというのがとても苦手なので、こういう形で文章に合わせた造語を組み合わせられるのは凄いと思いました。

※すみません、ここまで書きましたが書淫自体の言葉はある?みたい?ですね笑 調べずに書いてしまいました。

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