短編 必殺拝借人

霞千人(かすみ せんと)

第1話 クラス召喚

俺の名は佐藤亮太。某公立高校の1年生。同じ中学絞からの顔なじみが三分の一を占める田舎の高校生男子だ。

というわけで高校入学時から中学校時代のいじめられっ子が、引き続いていじめられっ子認定されている。なので俺に話しかけて来るまともな生徒は居ない。下手に仲良くなったら自分もいじめられる恐れが有るからだ。

俺としてはそれが有りがたい。俺はボッチが気楽だからだ。


ホームルームが始まった。その時教室の景色が歪んで見えた。うっ、気持ち悪い。教室中が騒がしくなった。一瞬目の前が真っ暗になって俺達のクラス全員が石の床の広い部屋の中に居た。

周囲には見慣れぬ服装の男たちが俺達を取り囲んでいる。兵士だろうか剣や槍を持って居る。


「ようこそ皆さまアルフレッド王国へ。私はこの国の魔法師団団長のメリヤーと申します。皆様は勇者候補として召喚させて頂きました」

アニメでよく見る魔法使いの衣装を着た女性が現れて言った。


勇者とか召喚とか聞いて喜んでいる者が半数。不安で泣き出した女子生徒も居る。俺はと言うと現実から逃れられるかと期待半分、クズ認定されるかもしれない不安半分だった。


「どれどれ今回の勇者候補に本物の勇者はおるかな?」

周りに護衛を引き連れたデブッチョの男が現れた。


「国王陛下のおなりである皆の者頭が高い控え居ろう!」

いかにも宰相だぞという見た目の痩せた初老の男が良く通る声でざわめきを抑えた。


「これより皆の能力を鑑定する。勇者、又は勇者メンバーに値する人材であることを願う」


宰相の声で魔法使いの格好をした男女が水晶玉みたいな球を持って俺達1人1人の前に立った。

俺の前には副団長という男が立った。

水晶の上に手を置けと言われてその通りにする。

「おお、こちらは勇者様です」「こちらは聖女様です」

「こちらは剣聖様です」「こちらは賢者様です」

そう言われているのは俺をいじめているグループのメンバー達だった。

俺はと言うと「えっ、なにこれ?ハイシャクニンですと⁉」


それを聞いたいじめグループのリーダーで通者認定された葛城勇次郎が寄ってきて、早速からかう。

「いよー、お手を拝借、よよよい、よよよい、よよいよい、おめでとうございます!良かったな亮太、ちゃんと能力が有って!役に立つかどうか分からんものだけどなギャハハハハ」

葛城の冷やかしにクラスメイトがどっと笑う。


苦虫を噛み潰したような顔をしているのは国王達だった。


「そんなクズなど要らぬ【死の森】に転送してしまえ!」


国王の命令であの女魔法師団長メリヤーが俺の前に来た。何か詠唱を唱えている。俺は急に【拝借】の使い方が判った。

詠唱している隙に俺はその女から転移魔法以外の彼女が持っている全部の魔法を拝借した。兵士長らしき1番強そうな男から剣術の能力を拝借して、宝物庫から【1番切れ味の良い剣】を拝借し、王城内の全ての貨幣を拝借して収納空間に収納しておいた。女魔法師から拝借した時空間魔法の【時空収納庫】を使わせていただいたのだ。詠唱が終わって「転送死の森!」


転送された。


彼女から拝借したこの世界の知識では、この森は王城から東に200㎞離れた所に有る魔物の跋扈する森だということが判っている。

魔物探知魔法に魔物が検知された。宝物庫から拝借した剣を鞘から抜いて兵士長から拝借した剣技を使って魔物を倒そうと思う。

素人の俺でも見ただけで分かる名剣だ。あとは俺の腕力と体力が通用するかどうかだが……

【身体強化】が施されたようだ。身体に力がみなぎってくる。現れた魔物は体高4mを超える大きな黒熊だった。

【ブラック・ワイルドベア】と言うらしい。

普通なら身体がすくんで動けないだろうが拝借した胆力でまともに立ち向かうことが出来た。


全速力でぶつかろうとして来る黒熊の突進をさらりとかわし、ジャンプして黒熊の首に剣を振り下ろす。

シュパッと首が飛んだ。黒熊はそのまま走って立ち木にぶつかってそのまま横転した。倒せたようだ。死体を収納しておく。


さてこの後俺はどうすれば良いのだろう?


魔法師団長の彼女は優秀な人物だったようだ。彼女の知識によると隣りの更に隣のベランダ王国が平和で政治的に安定した国のようだ。良しそこへ行こう。

俺は飛行魔法で上空100mに高度を上げて周囲の景色を確認すると、北側に馬車が通れそうな街道が有る。道なりに行くことにして、俺は街道に飛んだ。




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