第4話 倒れていたのは?
(大声を出したのは不味かったかもしれない…)
ゴブリン3体に囲まれた人を見捨てることが出来ず、咄嗟に走り出したまではよかったが京介は自分の行動に悔いていた。何も声を出して気を引く必要はなかった。後ろから確実に一体をし仕留めるような立ち回りも出来たかもしれない。運よく転倒し伸びた1体はさておき、素手であるが2体のゴブリンにロックされいる。倒れた人も一緒だ。
(まあ、武器も無いし仕方ないよね)
自分に言い聞かせつつ思案していると倒れた人の剣が手に当たった。すでに手遅れか、意識は無い様子。この剣を使えば何とかなるか。そんな様子を4つの目がギロギロと見つめている。飢えたハイエナの如く獲物を逃さないよう、ジリジリと距離を詰めながら近づく様子は昨日の再現か。
しかし、今は武器がある。こんなもの使ったことも無いが素手よりはマシだ。ただ、震える体で落ちた剣を持ち構える姿はゴブリンには滑稽に映っただろう。残虐なニタリ顔で腰に据えた錆びた斧や短剣を構えながら近づいてくる。
「この‼」
短剣のゴブリンがいくらか近いか。タイミングを見計らい、上段から切りつけるもゴブリンは難なく避けてしまう。追撃を試みるが横から斧が振りかかる。
『ギャギャ』
『ギャ』
「うりゃ‼」
『グギャ、ァァ⁉』
転がり斧を避けるが体制を立ち直す前に2体がさらに詰めてくる。何とか剣を突き出し、短剣ゴブリンを串刺しにするが、その隙に斧が京介を再度襲う。剣を握られ身動きが取れない京介に迫りくる斧。手を放して避けようとするがすでに斧の間合いであった。
『ギャギギ‼、…ッギ⁉』
ズザっ
寸でで斬撃を受ける瞬間、ゴブリンが前のめりに倒れる。ゆっくりと力を無く迫り来る斧を横に避け転がり込む。息を整えゴブリンの後ろを見るとそこにはやはり、
「ラムちゃん!!」
水面から出た蛇の如く、鋭い先端の鎌首を持ち上げたプルルンボディがそこには居た。先端から滴る体液を振り払い、グニュグニュを駆け寄ってくるラムちゃんを京介はしっかりと抱きしめるのだった。
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「これで良し、次は」
最初に伸びていたゴブリンに止めを刺し、うつ伏せで素早く倒れている人に近寄る。頭から出血している様だが、見た目には大きな怪我は無い様子だ。
「もしもし、大丈夫ですか?」
(頭から出血しているみたいだしあまり揺らすのもな)
肩を叩きながら京介はどうしたものかと戸惑っていると、ラムちゃんがズニューっと風呂敷状に拡がってゆっくりと覆いかぶさってしまった。
「え⁉ラムちゃん?ダメだよ、まだ生きてるかもしれないし、食べちゃダメだって」
実は、先日のゴブリン戦のあと、転がったゴブリンを同じように包みこんで消化していたのだ。スライムの食事はそんなものかとあまり気にせず見ていた。しかし今回は、
(この人はまだ生きてるかもしれない。すぐに止めさせないと。)
≪え?お前も夜に引き寄せられて取り込まれていただろうって?嫌だな、ラムちゃんが僕を食べるわけないじゃん!!!≫
そんな虚しい一人芝居をしている場合ではない。せっかく出口に繋がる手がかりが手に入るかもしれないのだ。
「ラムちゃ~ん、お願いだよ。そこのゴブリン三体とこの人を交換して~」
どこぞの引き換えか、明らかにゴブリン3体の薄汚れた体よりもこの子の褐色で健的的な瑞々しい体の方が美味しそうではある...。この子...?
ラムちゃんベッドの中で仰向けにされ消化?されつつあったのは、ショートヘアの女の子であった。背丈は京介よりやや小さめだが、年端は京介とさほど変わらないか。ふっくらとした胸のたわみも女の子であることを物語っている。
(わ、わ、まずいよ。女の子なら尚更、ご両親にしっかり届けないと。)
何とかして亡骸だけでもこの子の両親のもとへ届けたいと京介は考えた。自分の子供の最後がどのようなものだったか、辛くともせめて、両親や家族には知ってもらうべきだ。
「ほらほら、新鮮なゴブリンが3体ですよ~。今なら特別に、隠し持っていたこの赤い果物も付けちゃうよ~。だから、その子をペっしなさい、ぺっ。」
抱き合わせ商法を試みるも、ラムちゃんは一向に女の子を吐き出そうとしない。それどころか、プルプル震えだし、グニュングニュンと蠢き、上下から中心に向かって絞り上げる様に脈動している。
「あわわわ、そんなに絞っちゃ粉々になっちゃうし、消化にも悪いよ。お腹壊すよ。」
京介の悲痛な思いが通じたのか、ラムちゃんの動きは徐々にゆっくりになり、う~ん、ぺっ、と地面に女の子を吐き出してくれた。見る限り溶けて無くなった部位も無いし、服も肌も汚れておらず綺麗になっている。
「う~ん、あ、ここは…? ひっ⁉ 誰ですか⁉」
なんと血だらけだった女の子が目を覚ましたのだ。目を覚ますや否や、腰を探り自分の剣を探している様だが、そこに剣は無い。京介がゴブリン退治に使用し今も彼が持っているからだ。
「わ、私の剣を返して下さい‼」
「え⁉あ~、これか。はいどうぞ。」
「え?あ、ありがとうございます?」
まさか敵対し警戒している相手から素直に剣を渡されるとは思っていなかったのか、女の子は戸惑いながらもお礼を言いつつしっかりと剣を受け取った。
「あ、貴方は誰ですか?どうしてここに?それにゴブリンたちは?」
「あー、僕は京介、蒼井京介。僕もなんでここに居るか分からないんだけど、君を襲っていたゴブリンはもうそこで倒しているよ。」
京介の指さす方を警戒しながら見てみると、確かに自分を襲ってきたゴブリン達がすでに事切れている様だった。
「あなたが倒したんですか?3体も?それにそんな装備でですか?」
「うーん、僕も倒しはしたけど、ほとんどがラムちゃんのお陰かな?」
「らむ、ちゃん?」
「そう、僕の愛しのラムちゃん、ちっちいのに真っ白プニプニでとっても可愛いやつなんだよ。ほら、ゴブリンの傍に」
突然、ラムちゃん愛を爆発させ、目の前の女の子にどう思われるか何て気にもせず、堂々と自慢する彼にちょっと引きつつ、再度ゴブリンの亡骸を見てみると、
ゾニューっと三体まとめて覆いかぶさる白く透明なスライムが、
(ひっ…⁉⁉⁉⁉⁉)
「あー、ラムちゃんお腹空いたんだね。一杯動いたもんね」
と、スライムに声をかける怪しい青年と食事を開始しただろうスライムを交互に見つつ、彼女は再び意識を失うのであった。
「ありゃりゃ?」
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ゆさ、ゆさ、
(誰かにおんぶされている。)
(おんぶなんて小さい頃お父さんにされたっきりだなぁ)
彼女は京介の背に担がれて、廃坑後を進んている。気絶した彼女が起きるのを待っても良かったが、彼女の散らばった持ち物の中にこの廃坑の地図が入っていた。そこには出入口と、最奥に大きなバッテン印。彼女は一人廃坑の奥へと行こうとしていたのだ。
(ふー、しかし女の子が一人でこんな危ない場所に来るなんて、余程最奥に行く理由があるんだろうな)
(最奥か~、ゲームならボスが居るはずだろう?引き返した方が良いんじゃない?)
改めて地図を見てみるが、京介が通て来たような道の記載はなく、あるのは入口から広間からボスへ続く一本道のみ。何度も彼女を連れて出入口へ向かおうとしたが、ラムちゃんが強引にバッテン印の道を進んでしまっている。
「おーい、ラムちゃんやい。こんな危ないところはさっさと脱出しようよ。」
「こっちは女の子も居るんだぞ~」
京介の泣き言など聞こえないのかラムちゃんはどんどん最奥に向かって進み続けている。ゴブリン等に出くわす可能性もあるが、そんなのお構いなしである。
「うっ、あ、私…あ‼」
「あ、気が付いた?ってちょっと危ないよ」
彼女は気が付くや否やジタバタと暴れ強引に地面に降り立った。また覚束ない足取りであるが、先ほどよりは回復したようだ。
(体が軽い?)
トントンと調子を確かめるようにその場で跳ねる彼女をみて京谷は、
「そろそろ君の名前を教えてもらっても良いかな?一応助けた形だし、いつまでも呼び方が無いのは、ね?」
少し間を開けて、彼女は、
「エリナよ。助けてくれて感謝してるわ」
「そっか、エリナ。改めて京介だ。向こうのラムちゃん」
二人の声にラムちゃんもゆらゆらと体を揺らし答えた。
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続きはまた明日。
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