第34話 再戦

 服は血で汚れ、肌はあちこち切り傷と打撲創で朱色になった相棒。

 立ったままピクリとも動かない。


 ああ……ごめんな。

 最初から勝てないってわかってたけど俺達が死なないように無理して……

 やはり俺は無力だ。思い返せば俺はあのオークションで100億で買われた時からずっと助けられっぱなしだ。

 でもそれは今までの話。これからは俺がティナの隣に堂々と立てるように努力するんだ。


「よお……相棒が世話になったな。選手交代だ、俺が思う存分相手になってやるよ」


「その女は我の食卓に並ぶ資格もない弱者だ」


「そうだね〜クソ雑魚でほんと笑えるよね〜」


「そうか。ならお前ら二人でかかってこいよ。もちろん余裕だよな?」


 床に転がる石を踏み潰すと睨むようにして言った。対して二人は余裕そうに指や首をポキポキと鳴らしている。

 一度は声を聞くだけで怯えていた相手に対してここまで強気になれるのは、ツバキから授かった力の影響か、はたまた相棒を侮辱されたことに頭を熱くしているせいか、誰にもわからなかった。


「お前らが動かねぇのなら俺から行くぞ。コハル、みんなと先にここから逃げてくれ」


 まるでそういう景色なのかと錯覚するほどに、二人は動かない。

 じっくりとこちらの様子を伺っている。

 それならば、とレイはコハル達の姿が見えなくなると、陸上選手のクラウチングスタートの構えをする。


「3、2、1──」


 "0"が聞こえるより前にレイは姿を消した。

 それはまるで初めて出会ったオークション会場でティナが見せた行動のよう。


 音が遅れてくる。

 それより先に、風が爆ぜた。

 空気の壁が叩きつけられ、二人は横殴りに吹き飛ぶ。

 何かが、音より速く世界を裂いたのだ。


「──0。……あれれ、横を通り過ぎただけなのにどうしたんだよ。まさかその程度で終わりとかないよな」


 通路の奥でレイは敢えて嫌なふうに言い捨てる。

 その体を擦り傷と火傷の痕が模様付けていた。


「も〜不意打ちなんてズルいよ〜。もう許さないんだからね〜?」


 腕の関節をありえない方向に曲げた一人はムクリと起き上がると、服についた砂埃をはらう。

 痛いじゃ済まないくらいのダメージを与えたはずだ。それなのにニコニコと気色の悪い。


「お〜い……って失神してるじゃ〜ん。やっぱり兄さんは不完全。失敗作なんだよ」


 ここに来て初めて二人が兄弟だとわかった。と言っても姿が似すぎているので、なんとなく予想はしていたが。

 音速を超えたことにより発生した衝撃波。強いけれど普段から使うのは控えよう。

 俺は体が頑丈だから致命傷を負わなかったが、一般人と同じような体つきだったら死んでいたかもしれない。


「お前は不死身かよ」


「ん〜、僕はそれに近い感じかな〜。でも死ぬことは普通にあるよ〜。さっきの衝撃波は正直焦ったよ〜」


「ハッ、化け物が」


 そう言い捨てると、両拳を強く握りしめる。


 ティナのような回復ではなさそうだ。なにせ折れた腕の骨が治っていないからな。

 俺のように頑丈なだけだろうか──物は試しだ。体力が尽きるまで殴り続けてやる!


「ティナをあんなにボロボロにさせたこと、後悔しやがれーーーーッ!!!」


 レイの腕は速すぎるがゆえに残像となって、三つ、四つと多くあるように見える。

 相手は初めは見きって受け身をとっていたものの、途中からその精度も落ちてきた。

 それが何分間も続き、レイにも疲労が見えてくる。


「これで終わりだァーーッ!」


 最後の一撃にと放った蹴りは相手の腹に深く命中し、そのまま背後に吹き飛ぶのだった。

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