親友の異変①

 音楽室での一件以来、なぜかたまーに音成が私をジッと見てくるときがある。

 何か聞きたそうな顔で、ジーッと。


「……」


 正直、見られてるこっちは気まずい。

 今もまた見られているのを感じて音成の方を見てみたんだけれど。


「っ!」


 目が合ったとたんサッと視線をそらされる。

 毎回これだからさすがにうんざりしてきた私は、思い切って聞いてみることにした。


「何か用?」

「あ、いや……」


 でも音成は周りの様子をうかがうように視線をやって。


「なんでもない」


 って結局何も言わないで立ち上がりその場からいなくなってしまった。

 もう! 本当に何がしたいのこのヒヨコ頭は!?


「もしかして律くん、奏華ちゃんのこと好きなのかなぁ?」

「はぁ!?」


 お昼休みにいつものように春ちゃんと雪くんの三人で集まって話していたら、雪くんがとんでもないことを言い出した。


「たしかになんでジーッと見てくるのかな? って思ってるけど、さすがにそれはないと思う」


 私も恋愛に関してそこまでくわしいわけじゃないけれど、音成の視線は好きとかそういうものじゃないと思うんだよね。

 なんていうか……聞きたいことがあるけれど、聞いていいのかどうかわからない。みたいな?


「そうかなぁ? 律くんってかわいいもの好きみたいだから、少なくともキライってわけじゃないと思うけど」

「は? かわいいものが好き?」


 い、意外過ぎる。

 あの目つきの悪さでかわいいぬいぐるみとか集めたりしてるのかな?

 いやいや、それよりも!


「その言い方だと、私がかわいいってことになるけど?」

「え? うん。奏華ちゃんはかわいいよね?」


 ニッコリ笑った雪くんの糸目がさらに細くなる。

 ふっくらほわほわで癒される笑顔だ。

 そんな雪くんに『かわいい』って言われるのは純粋にうれしい。

 でも、同意は出来ない。


「ありがとう。でもかわいいっていうのは雪くんや春ちゃんみたいな子のことを言うんだよ?」


 ふわふわかわいくて、思わずぎゅーってしたくなるような二人。

 雪くんはさすがに男の子だからぎゅーはしないけどさ。

 でもやっぱり二人みたいな子をかわいいって言うと思うんだ。


「だいたい私、アイツにはかわいげがないっていつも言われてるのに」


 にらまれてかわいくないって言われてるんだから、むしろきらわれていると思うんだけど。


「照れ隠しなんじゃないかなぁ? わたしも奏華ちゃんはかわいいと思うよ?」 


 雪くんと同じく私のことをかわいいって言ってくれるのはうれしいけれど、音成の言葉が照れ隠しとかはやっぱりないと思う。


「ありがとう。でもやっぱり音成にかわいいって思われてる気は全くしないよ」


 私ははっきりと言い切って、「それよりも」と別の話題に変える。


「春ちゃん、今日は体調悪いって言ってたけど大丈夫なの? どことなく顔色が悪くなってる気がするんだけど……」


  今日は朝から調子が悪いって言っていた春ちゃん。会話してる分には元気そうだけれど、顔色は悪くなってる気がして心配になる。

 だから「保健室連れてこうか?」って聞いてみたんだけれど……。


「んー? だいじょうぶだよぉ~」


 ほわほわとした笑顔で返された。

 その様子はいつも通りだけれど、やっぱり元気がないように見える。

 私ですら心配なんだ。弟の雪くんはもっと心配みたい。


「春乃、本当に大丈夫? そういえば耳鳴りするとか言ってたよね?」


 本気で心配する雪くんにも「だいじょうぶだって~」と言う春ちゃん。

 たしかに熱があるとか他に症状があるようには見えない。

 心配だけど、本人が大丈夫だっていうから私たちはそれ以上強く言えなかった。

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