深く心に残る、ある病院での窃盗事件
- ★★★ Excellent!!!
とある病院に新しく入った介護助手の『山
下健悟』
黙々と勤務する彼は誰も寄せ付けない独特の雰囲気があり、他の職員も少し距離を置くようになります。
そんな中、看護師である坂口のあるものが更衣室のロッカーから無くなり、物語が動き始めます。
読み進めていくうちに明らかになる『山下』の行動、生活、そして最期。
全て語られるわけではないので、『山下』に何があったのか、誰も分かりません。
また窃盗などの犯罪は許し難いことなのですが、それだけでは済まない事情が想像でき、とても心苦しくなります。
彼の行動は『生きたい』という思いからだったのか、それとも『死ぬ勇気もなくただどうしようもなく生きていただけ』だったのか……
『山下』の存在は視点や考え方を変えるだけで様々な考察が出来るため、非常に上手くできた人物だと思います。
あえて彼の情報を出さないという手法が上手く、それが読者の想像力を引き立てています。
井上さんに関してもただ犯人探しをするだけではなく、相手への配慮やどうしようもなかった事情を察する優しさ、そして何か声をかけていればという後悔の念を感じ、とても好印象なキャラクターです。
世の中に起きる軽犯罪。
その中にはこの作品のように、生きるために犯したものもあるのだと思うと、とても心苦しく、深く考えさせられました。
素敵な作品をありがとうございました!