人々が働く普通の職場を通り抜けていった謎の人物、彼が残した小さな心の傷
- ★★★ Excellent!!!
この物語に殺人や怨恨などのミステリー的要素はありません。
職場で起きたのは、些細な窃盗事件だけです。
そしてその犯人と目される、事件後に失踪したある職員に関する謎が、結末に至るまで人々の心に小さな傷や静かな悔恨を少しずつ刻んでいきます。
その職員は果たしてどこから来て、どこに行ってしまったのか。
何故自分たちは、もっと彼のことを知ろうとしなかったのか。
そして読んでいるうちに、読者である私も、彼の同僚たちと同じ心理を辿っていました。
もし自分の職場に、彼のような人物がいたら、自分はどうしていただろうか。
その思いは不思議な余韻を伴って、読後に残り続けています。
とても現実味のある不思議なミステリー短編でした。
是非ご一読されることをお勧めします。