エルと4人の賢者
トムさんとナナ
第1話 プロローグ
石畳の路地に響く足音が、夕暮れの静寂を破っていく。エルウィン・グレイスは、懐に大切に仕舞った巻物の感触を確かめながら、急ぎ足で自分の店へと向かった。
呪文書の売買を生業とする彼にとって、古い文献との出会いは日常の一部だった。しかし、今日手に入れたものは違う。朽ちかけた露店で、腰の曲がった老人が「若い者には価値がわからんだろう」と苦笑いを浮かべながら、驚くほど安い値段で譲ってくれたのだ。老人は巻物を手渡す際、「答えを求める者にのみ、真実は姿を現す」と意味深な言葉を残して立ち去った。
店の奥の書斎で、エルは慎重に巻物を広げた。羊皮紙に刻まれた文字は、これまで見たことのないものだった。古代ルーン文字でもなく、失われた神聖文字でもない。それは文字というより、まるで音符のように流れるような曲線を描いていた。
数日間、エルは巻物と向き合い続けた。あらゆる解読技術を駆使し、手持ちの資料を総動員したが、一文字たりとも意味を掴むことができなかった。しかし、不思議なことに、この文字を見つめていると、心の奥底から懐かしい旋律が聞こえてくるような気がしていた。
エルの胸に、一つの可能性が浮かんだ。もしかしたら、これは——。
三年前、疫病によって失った恋人リリアナ。彼女の最後の言葉は「いつか、きっと」だった。エルは失われた知識を求めて古書を漁り続けていたが、その根底には、彼女を取り戻したいという切なる願いがあった。復活の術式、蘇生の秘法、魂を呼び戻す儀式——それらは伝説の中にのみ存在するとされていたが、もしこの巻物が…。
エルは巻物を再び見つめた。自分一人の力では限界があることを、彼は素直に認めた。この謎を解くためには、それぞれの分野で卓越した知識を持つ者たちの力が必要だった。
「賢者たちに会いに行こう」
エルは静かに呟いた。失われた知識を取り戻すため、そして——もしかしたら、愛する人を再び抱きしめるために。
夜が更け、月明かりが巻物の文字を照らした時、それらは微かに光を放っているように見えた。まるで、解読される時を待っているかのように。
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