第6話 元パーティとの再会、そして魔王城の混乱
「来たか……」
俺は、静かに呟いた。城の最上階から見下ろすと、吹き飛ばされた城門の先に、ライアス、リーファ、シリルの姿が見える。彼らは警戒しながら、城の中へと足を踏み入れている。
「アレン! 彼ら、あなたを探しに来たの?」
リリムが不安そうに俺を見上げた。
「さあな。だが、多分、俺を連れ戻すか、あるいは……」
そこまで言って、俺は言葉を止めた。彼らが魔王城に来た目的は、一体何なのだろう。俺の追放後、彼らに何か変化があったのだろうか。
「とにかく、俺が相手をする。リリムはここにいろ」
俺はそう言って、最上階から階段を駆け下り始めた。リリムは、不安げな表情で俺の後ろ姿を見送っている。
城の広間に出ると、すでにライアスたちが中に侵入していた。彼らは、俺が目覚めさせた眷属たちと対峙している。ドワーフの門番やオークの騎士たちが、ライアスたちの行く手を阻もうとしていた。
「そこを退け! 我々は魔王を討伐しに来たのではない! アレンに用がある!」
ライアスが剣を振りかざし、オークの騎士に切りかかった。オークは巨体を生かして剣を受け止めるが、その一撃は重い。
「ぐっ……!」
「させない!」
メルキアが、エルフの弓兵たちと共に矢を放つ。矢はライアスたちを狙うが、シリルが魔法の壁を展開し、それを弾き飛ばした。
「チッ、しぶといな」
ライアスは舌打ちをした。リーファは、傷ついたオークの騎士に回復魔法をかけようとするメルキアに、攻撃魔法を放つ。
「このっ!」
メルキアはそれを紙一重でかわすが、リーファの魔法は容赦ない。かつて俺に優しく回復魔法をかけてくれた彼女の姿は、そこにはなかった。
「やめろ、リーファ!」
俺は広間に飛び出し、ライアスの背後から叫んだ。俺の声に、ライアスたちは動きを止めた。彼らは一斉に俺の方を向く。
「アレン……!」
ライアスは、信じられないものを見るような目で俺を見つめた。リーファも、シリルの無表情な顔にも、驚きが浮かんでいる。
「なぜ、お前がこんな場所にいる!?」
ライアスが声を荒げた。
「それは俺が聞きたい。なぜお前たちがここにいる」
俺は、剣を抜き放ち、彼らに向けて構えた。
「アレン、貴様……魔王の手先になったのか!?」
ライアスが、憎悪のこもった目で俺を睨んだ。
「手先だと? ふざけるな。俺はただ、ここにいるだけだ」
「とぼけるな! この魔王城に入り込んでいる時点で、貴様は魔王と通じているのだろう! やはり貴様は、信用できない奴だったんだ!」
ライアスの言葉に、俺は激しい怒りを覚えた。信用できない? 誰が? 俺を一方的に追放しておきながら、今になって何を言う。
「うるさい! 俺を追放したお前たちに、俺をどうこう言う資格はない!」
俺は、真っ直ぐにライアスに切りかかった。『ディバイン・スラッシュ』を放つ。かつての仲間に対し、本気の剣技を叩き込む。
「なっ!?」
ライアスは、咄嗟に剣で受け止めるが、その衝撃に身体が吹き飛ばされた。
「ライアスさん!」
リーファが、慌ててライアスに駆け寄ろうとする。しかし、俺はそれを許さない。
「邪魔だ!」
俺はリーファの前に立ち塞がった。
「アレンさん、どうして……!」
リーファは、怯えたように後ずさる。俺は、彼女の顔を睨みつけた。
「お前たちが俺を追放したんだろうが。今さら、何の用だ」
「それは……! ライアスさんが、アレンさんの力を危険視しているから……」
リーファは、言葉を詰まらせた。
その時、背後からシリルの魔法が飛んできた。炎の塊が、俺の背後から迫る。
「くっ!」
俺は咄嗟に身を翻し、炎をかわした。シリルは、相変わらず無表情で、しかしその魔力は以前よりも増しているように感じられた。
「やはり、貴様は敵だ! 全力で排除する!」
ライアスが、俺に向かって再び突進してきた。彼の剣技は、以前よりも研ぎ澄まされている。俺がパーティから抜けたことで、彼もまた成長したのだろうか。
「俺はもう、お前たちの仲間じゃない!」
俺とライアスの剣が激しくぶつかり合う。火花が散り、激しい金属音が城中に響き渡る。リーファの回復魔法がライアスを癒し、シリルの攻撃魔法が俺を牽制する。
かつての仲間との戦いは、想像以上に激しいものだった。俺は、彼らの連携を熟知している。しかし、彼らもまた、俺の戦い方を熟知している。一進一退の攻防が続く。
その時、城の奥から、リリムの声が聞こえた。
「アレン! 無事!?」
リリムは、メルキアたち眷属を連れて、広間へとやってきたのだ。
「リリム、来るな!」
俺は焦った。こんな場所に来ては、彼女まで危険に晒してしまう。
しかし、リリムは俺の言葉を聞かず、まっすぐに俺たちの戦いに近づいてくる。そして、ライアスたちを見て、目を丸くした。
「あなたたちが……アレンをいじめた人たちね!」
リリムの言葉に、ライアスたちは驚いたように動きを止めた。
「魔王……!」
ライアスが、警戒しながらリリムに剣を向けた。
リリムは、ライアスの剣を恐れることなく、一歩前に踏み出した。そして、ライアスを真っ直ぐに見つめ、その瞳に宿る怒りを露わにした。
「アレンは私の大切な執事よ! あなたたちに、彼を傷つけることは許さない!」
リリムの身体から、濃密な魔力が放出された。その魔力は、広間全体を包み込み、ライアスたちを圧倒する。
「な、なんだこの魔力は……!?」
ライアスが、その強大な魔力にたじろいだ。リーファもシリルも、顔を青ざめさせている。
「リリム、やめろ! 彼らは……」
俺が止めようとしたが、リリムの怒りは収まらない。
「アレンを傷つけた代償は、高くつくわよ」
リリムの深紅の瞳が、妖しく輝いた。その魔力は、さらに増幅していく。このままでは、ライアスたちがただでは済まない。
俺は、慌ててリリムの腕を掴んだ。
「リリム、待て! 俺のことは、俺でケリをつける!」
俺の言葉に、リリムは少しだけ魔力を収めた。だが、その瞳に宿る怒りは、まだ消えていない。
「アレン……」
リリムは、俺の顔をじっと見つめた。その瞳に、俺は強い決意を宿した。
「これは、俺と奴らの問題だ。お前は、手を出さないでくれ」
俺は、そう言ってリリムの手を離した。そして、再びライアスたちに剣を向けた。
「ライアス、覚悟しろ。今度は、手加減なしだ」
俺の言葉に、ライアスはゴクリと唾を飲んだ。彼の顔には、焦りの色が浮かんでいる。
(一体、何がどうなっているんだ……? アレンは、本当に魔王の執事になったというのか? そして、この魔王の力……)
ライアスの脳裏に、様々な疑問が渦巻いていた。しかし、今、彼らは間違いなく、かつての仲間であるアレンと、魔王という強大な存在を敵に回してしまっていた。そして、この修羅場は、まだ始まったばかりだった。
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