第3話 新手の具材
「フン、ツナマヨか…山田が聞いたら、ぶっ倒れるな」
咲川は、ドイツ製剪定鋏をカチャリと開閉させながら、どこか楽しげに言った。その言葉に、湖(レイク)はさらに笑みを深める。
「ええ、咲ちゃん。だからこそ、ヴューなんです」
その時、倉庫の扉が勢いよく蹴破られた。飛び込んできたのは、鍛え上げられた肉体を持つ二人の男だ。一人は両手にトンファーを構え、もう一人は奇妙な形状の棍棒を器用に操っている。山田の右腕、滝。そして左腕、崖。
「ほのぼの。湖(レイク)!裏切り者め!」
滝が唸るような声を上げた。彼のトンファーが、まるで生き物のようにうねり、咲川目掛けて襲いかかる。咲川は素早く身を翻し、トンファーの攻撃を紙一重でかわす。倉庫の壁にトンファーがめり込み、鈍い音が響いた。
「随分とご機嫌斜めだな、滝。何かあったのか?」
咲川は飄々とした態度で問いかける。滝は舌打ちし、再びトンファーを構えた。
「とぼけるな!咲川、貴様も同類だ!山田様を裏切るとは、万死に値する!」
その間にも、崖の棍棒が不規則な軌道を描き、咲川の死角から迫る。まるでゴムのようにしなり、予測不能な動きをするその棍棒は、確かに厄介だ。咲川は剪定鋏で棍棒の先端を受け止め、キンッと甲高い音を立てた。
「おいおい、そんな物騒なもん振り回して、誰かのお気に入りの猫が驚くだろうが」
咲川が視線を投げると、先ほどの黒猫が倉庫の片隅で丸くなり、不安げにこちらを見ている。湖(レイク)は、そんな咲川と猫の様子を一瞥すると、不敵に笑った。
「心配ノンノ、咲ちゃん。あの猫は、修羅場慣れしてるからにゃ」
湖(レイク)はそう言いながら、手元のアーミーナイフをクルクルと回す。その目は、獲物を狙う肉食獣のようだ。彼女は、滝と崖の間に割り込むように動き、流れるような動作で滝のトンファーを弾いた。
「さて、本番開始と行きましょうかにゃ? まずは前菜、それともデザートから?」
湖(レイク)の声には、どこか愉悦が混じっている。彼女のスイス製アーミーナイフが、滝の顔すれすれを掠め、滝は思わずのけぞった。滝の隙を突き、咲川が素早く懐に飛び込む。剪定鋏の刃が、滝の腕を狙う。滝は間一髪でトンファーを盾にしたが、その衝撃でよろめいた。
「ぐっ…彼奴らめェ」
滝が悔しげに呟く。その時、崖が背後から咲川に襲いかかった。360°曲がる棍棒が、まるで蛇の舌ように咲川の首に巻き付こうとする。咲川はとっさに身をかがめ、棍棒をかわす。そのままの流れで、剪定鋏の鋭い刃を棍棒の関節部分に差し込んだ。カツンと乾いた音がして、棍棒の動きが一瞬鈍った。
「なかなか面白い芸をするな。だが、そろそろゲーム·オーバーだ」
咲川は棍棒を強く掴み、崖の体勢を崩す。そして、剪定鋏をそのまま振り上げ、崖の眉間目掛けて振り下ろした。崖は顔を歪め、寸前のところで棍棒で防御したが、その衝撃で膝をついた。
湖(レイク)は、その様子を冷静に分析していた。彼女は滝の動きを先読みし、巧みにナイフを操る。滝のトンファーがどんな軌道を描こうとも、彼女のナイフはそれをいなし、常に滝の急所を狙っていた。
「山さんがあなたたちに与えたのは、ただの具なしおにぎりでしょう?それでは、この世界の空腹は満たされない」
湖(レイク)の言葉は、滝と崖の心に深い部分にまで届いているようだった。彼らの動きに、一瞬の迷いが生じる。その隙を見逃さず、湖(レイク)は滝のトンファーを蹴り上げた。トンファーは天井に当たり、ガランと音を立てて床に落ちる。
「おいおい、武器を粗末にするんじゃないぞ、滝」
咲川が皮肉っぽく言うと、滝は顔を真っ赤にした。その時、倉庫の奥からさらに足音が聞こえてきた。複数の足音。山田の追手は、まだいたのだ。
「増援か。ちょうどいい。卵焼きやら、タコさんウィンナーやら、おにぎりの具材が増えるな」
咲川は不敵に笑った。湖(レイク)もまた、口元に笑みを浮かべた。彼女はナイフを構え、新しく入ってきた追手たちを見据える。
「さあ、皆さん。ツナマヨ味のおにぎり、召し上がれ!」
湖(レイク)の言葉を合図に、咲川と湖(レイク)は同時に飛び出した。
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