5-6

 練習が休みのはずの土曜日にアオイくんに会えないかな、と連絡を貰ったのは昨夜のこと。

 呼び出されたのはカラオケBOX、歌うでもなくさっきからずっと話している。

 カラオケボックスだと誰にも聞かれることもないだろうというアオイくんの配慮だろう。

 アオイくんが私を呼んだのには、きっと意味があるはずだ。

 加瀬くんと菜々さんことだろうとは予測がついていたし、それを聞いても今更どうしようもないのはわかっている。


「海音ちゃんとこのクラスって縁日だっけ?」

「うん、アオイくんとこはパンケーキでしょ、しかも周が焼くとか」


 パンケーキ屋さんのシュウの姿を思い出して笑ってしまう。

 夏休み最後の日、アオイくんと加瀬くんと三人で、ついに周のバイト先に突撃したのである。

 周は恥ずかしかったらしく、めちゃくちゃ怒っていたけれど、すごく様になっていた。

 ただ可愛いパンケーキ屋さんで、いかつい顔をした男子が働いている姿は、どうしても面白くてニヤニヤしたら、周に私だけゲンコツをされたんだっけ。


「海音ちゃん、絶対笑っちゃダメだよ、周マジでキレるからね」


 あ、そうだった、またゲンコツされちゃう、気を付けなくちゃ、と笑いあう。

 学祭の話とか周の話とかひとしきり他愛もない話をした後で。


「拓海から、何か聞いてる?」

「菜々さんのこと?」

「そう」

「幼馴染で、元カノさんって……」


 できるだけ暗くならないように話そうとしてるけど、どうしても思い出すと笑顔がひきつってる気がする。

 あのあと、二度菜々さんは練習場所を訪れてきた。

 初対面の私や周に気を使って差し入れなんかを持ってきてくれたり、人見知りっぽくて加瀬くんやアオイくん以外とはあまり話せないみたい。

 そういう時は自ずと休憩中、私は周とばかり話していた。

 好きだった人の好きだった人が突然目の前に現れて、嬉しそうにニコニコと静かに練習を眺めているのだ。

 嫌な子であれば良かったのに。

 そしたら、私だってまだ、加瀬くんのこと諦めたりしなかったのに。

 菜々さんが本当にいい子だったから、加瀬くんが彼女を選んでも仕方ないって思った。

 いい子で可愛くて加瀬くんのことが大好きで、私はもう何も敵わない。

 ドラムができるってことくらいでしかもう加瀬くんと繋がってなどいられないということを、ここ数日で思い知った。


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