人見知りな幼馴染と、二人きりで試したいコト。

超越さくまる

プロローグ

「はるくん、今更だけどかっこよくなったね」


 放課後、幽霊部員ばかりで誰もいない部室。そこで、幼馴染の白河小峰は今泉春樹の肩に頭を預けながらそう言う。彼女はただの幼馴染。中学時代は小峰がドイツに行っていたのでその三年分交友がメッセージだけだったわけだが、高校に入学して間もないというのに距離が近い。


 普通の幼馴染だと今まで思っていたが、こんなのドキっとしてしまう。

 しかし、幼馴染どころか兄妹のようにこうやって育ってきたのだから、仕方ない。距離が近いのはともかく、流石にかっこいいと言われるとドキっとする。幼馴染とはいえ初めていわれたし、男子としては嬉しいものだ。


「ま、まあ、高校生になって身だしなみも気を使わないとって思ったからな」


 ドライヤーでセットできる程度だが、美容院に行って髪型を変えて、眉を軽く整えて、表情も明るく見える様に努力した。


「そういう小峰も……」


 小学生の頃と比べて、断然可愛くなったと思う。最近の流行を取り入れた前髪に、さらりと肩甲骨の下あたりまである綺麗に染められた桜色のロングヘア。髪色も相まって地味さを感じさせない、しかし派手な髪ながらも清楚に見える外見。入学一ヶ月ですでに三人から告白されているほどだ。

 もっとも、小峰は人見知りなので仲の深まっていない相手に了承するわけもないのだが。


「わたしも?」

「まあ、可愛くなったんじゃないか?」

「素直じゃないなぁ、はるくんは。二人きりなんだから、もっと素直になっていいんだよ?」

「年頃の男子にそう言うのを求めるな」


 軽く小峰の頭を小突く。


「昔はもっと素直だったのに」

「空いた三年間は大きいってことだよ。てか一応聞くけど、俺が好きなわけじゃないんだよな?」


 自意識過剰なのは承知しているが、好きになられるのが怖くて念のために聞く。


「好きじゃないとあんなこと言わないし、こんなことしないよー」

「そういう好きじゃなくて」


 そう言うと、彼女はすっと、感情が抜け落ちたように無表情になる。


「あるわけないよ。恋なんて、醜い性欲を取り繕ってるだけじゃん」

「なんだ、安心した。同感だ」


 恐らくそう思うに至った経緯は違う。しかし、春樹も同じことを思っていた。恋愛感情がないからこその、この距離感。だから安心できる。

 同意したところで、小峰はまた笑顔を取り戻し、話題を戻した。


「ところで、三年間趣味とか変わってないの?」

「ああ」

「またおすすめ教えてよ」

「そうだな――」


 共通の趣味を持てないのは今でも嫌なようで、合わせようとよく春樹におすすめを聞く。何作か初心者でも入りやすいアニメを答えると、早速小峰はスマホで検索した。サブスクには入っているらしく、気になる作品に登録までしている。


「帰ったら見てみるね」

「長いから、徹夜して観たりするなよ」

「大丈夫、健康には気を使ってるし。ご飯食べながらゆっくり見るよ」


 そんな、少し甘くも、ごく普通なやり取りをして、俺たちは下校時間になると一緒に部室を後にする。

 家は徒歩数十秒なので、そこまでずっと一緒だ。

 帰り道、手前にあるのは小峰の家で、春樹は彼女が高級マンションのエントランスに入るのを見送って春樹も家に帰る。


 今日も家には誰もいない。一人っ子で両親は仕事の都合で家にはいない。人を連れ込むには絶好の環境なのだが、連れ込む相手も別にいない。しいて言うなら、勉強会で小峰に色々教わる程度だろうか。まあ、まだ勉強会をするほどではないのでそのためだけに呼ぶ気はない。


 家に帰った春樹は制服から部屋着に着替えて明日の宿題に手を付ける。授業は真面目に聞いているので、宿題程度はスラスラと解けた。

 それが終わった頃、小峰から『宿題どうだった?』とメッセージが来た。


『余裕だったよ』

『流石。わたしも余裕だったよ。でも教える機会なくなっちゃったかー』


 小学生に頃よく勉強を見てもらっていたからか、残念そうに(´・ω・`)と顔文字が一緒に送られてくる。


『一応成績は維持しておきたいから』

『偉いねー。ご褒美あげる』

『というと?』

『お菓子作ってあげる。明日も部室でね』


 明日も、幼馴染以上の距離感で二人の時間を過ごすことが確定した。

 二人きりだと彼女は積極的になる。というのも、人前になると途端に人見知りを発動するのだ。それが二人きりになったとたん、恋人のような距離になる。人がいると、春樹とすら会話がたどたどしくなるのに。


 だから、春樹としては距離感が掴めない。正直なところ、彼女の本心がわからないのだ。そして、自分が彼女をどう思っているのかも、最近わからない。どんな感情で昔の様に過ごしているのだろうか。

 入学して一ヶ月、ずっとそんな思考が頭の片隅にあった。

 けれど二人お時間自体は楽しいので、断りはしなかった。

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