さきがけ!! ステニの王子様

アイラ

第0話 出会い

 私立・彩鏡さいきょう学園高等学校に入学した王言寺 ダイ(おうごんじ だい)は、期待に胸をふくらませていた。


 登校初日の放課後のことである。


 ついに彼の待ち望んだ瞬間が訪れようとしていた。


 ホームルームの終わりとともに、新しいコミュニティ内での駆け引きに余念がないクラスメイトたちを横目にダイは教室をあとにする。


 昇降口へ向かう途中のトイレで所用を済ませてから下足に履き替えると、目指すは学園の端に居を構える武道場。


 体育館とは別に、格闘技・武道などでの使用に特化して用意された建物だ。


 その存在こそが、ダイが進学先としてこの高校を選ぶにあたっての、唯一にして最大の理由だった。




「君かわいいね〜。ラグビー部のマネージャーとかさ、興味あるんじゃな〜い?」


 校舎を出たところで新入生の勧誘行為をしていた粗野な男たちに声をかけられ、猪股 陽子(いのまた ようこ)は困惑していた。


 一番に教室を出て寄り道もせずにここまでたどり着いたため、陽子とラガーマンを除けば周囲に人影はない。


 どちらかというと気の強い陽子ではあるが、登校初日という慣れない環境に加えて、いきなり声をかけてきたのはデリカシーという言葉をどこかに置き忘れてきたような大男の二人組。


 その様子はまるで、近所のさびれた寺の山門で見かける仁王像の阿行あぎょう吽形うんぎょうのごとし。


 平凡な女子生徒の身であれば、恐れをなすのも当然なシチュエーションである。


「あの、このあと友達と会う約束があって……」


 やっとのことで言葉を絞り出した陽子だが、語尾が縮んでしまい最後まで話し通すことが出来ない。


 それでも十分にこちらの意図が伝わる程度には話せたはずなのに、勧誘男たちは陽子を開放するそぶりを見せなかった。


「え〜、そんなの後回しでいいじゃん。これからの三年間を決める部活選びなんだから、大事なことでしょ。ちょっとだけでいいからさ、見ていきなよっ!」


 よくしゃべるほうの勧誘男(阿行と仮定する)がそう言うと、寡黙なほうの勧誘男(吽形と仮定する)が陽子の後方へ回り込んで彼女の退路を断つ。


「でも私、ほんとうに、行かないと……」


 恐怖のあまりか、陽子の言葉は途切れ途切れとなった。


 膝がガクガクと震えはじめる。


(こんなことなら、急いで校舎から出てくるんじゃなかった)


 陽子は目頭が熱くなるのを感じていた。




「ちょっと、邪魔なんすけど」


 陽子の後方へと回り込んだことで、吽形は通用口をふさぐような形で立っていた。


 それなりに広い間口のある通用口であるが、体格の良いラガーマンが突っ立っていれば確かに邪魔ではある。


 だがそれでも吽形は、自分が悪いことをして申し訳ないと思うタイプの人間ではない。


 多くの場合、人は彼の巨体を恐れて遠慮するし、それが当たり前だと思っていた。


 そんな当たり前の行動ができないのはどんな奴だと思いながら振り返ると、そこに立っていたのは涼しい顔をした優男やさおとこ


 身長は、百九十近い自分に比べれば十センチほど低いだろうか。


 小柄とは言わないが特別に高身長なわけでもない。


 体格も、痩せているとまではいわないが、ラガーマンとして鍛えた自身の肉体に比べれば貧弱といっていいだろう。


「新入生の坊やかな。中学では、口の聞き方を教わらなかったらしいね」


 ぶしつけな物言いをされることに吽形は慣れていなかったし、そういう扱いを受けて黙って退しりぞいたとあっては、自身のメンツが潰れることになる。


 生意気な新入生には、礼儀というものを教えてやらなければならない。


「口の聞き方なら習ったよ。確か、『バカはすぐ調子に乗るから、下手したてに出るのは良くない』とか」


 優男は悪びれることなく、そう答えた。


 それを聞いた吽形の顔かたちがゆがむ。


「ほう。つまり、俺のことをバカだと言いたいわけか?」


 それを聞いた優男が、感心したようにうなずく。


「へえ。皮肉は通じるみたいだな。ちょっと見直しましたよ」


 あきらかにケンカを売っている。


「てめぇ!」


 吽形が叫んだその時、陽子をはさんで事態を見守っていた阿行が、通用口の方を見て顔をしかめた。


「他の生徒が出てくる。ちょっと来いよ、新入生。体験入部と洒落込しゃれこもうや」


 騒ぎが大きくなるのはマズいと判断した阿行が、吽形と優男に声をかけた。


 優男に「お前のほうが不利なんだぞ」とプレッシャーを掛けるため、こっちは複数人いるぞと自分の存在をアピールするための声かけでもある。


 阿行としては、優男が逃げてくれてもオーケーなのだ。


 生意気な新入生は腹立たしいが、逃げてくれれば次のナンパ、……もとい勧誘に移行することができる。


 だが優男に動揺は見られない。


「俺の入部先は決まってるんだ。それよりさ、ちょっと人目につかない場所にでも案内してくださいよ。先輩方」


 不敵に微笑みながら、堂々と宣戦布告する優男。


 そして、ふと思いついたように陽子に視線を向けた。


「もう君は帰りな。あとは俺に任せればいいから」


 優男はそう言うと、「先導は任せた」と言わんばかりにラガーマンたちをうながしたのであった。




 ◆◆◆ 作者より ◆◆◆


 とりあえず第一話です。


 読んでいただき、ありがとうございました。




 この物語では、主要な登場人物たちの氏名を週刊少年ジャンプの黄金時代(主に一九八〇年代〜一九九〇年代半ばといわれます)の連載作品にちなんで名付けていきます。


 深い意味はありません。


 ちょっとしたお遊びであり、名前を考える時間を省略するためであり、覚えやすくするための策略でもあります。


 名前の元ネタは、次回から随時解説していきたいと思っています。




 少しでも、面白い・興味深い・なんじゃそりゃ・元ネタを当ててやる・などと思ってくださいましたら、


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