第十二話 夏合宿
「あんた、うちの生徒なの?」
美里が珍しく驚いてる。
夏合宿用にレンタルしたハイエースワゴンの二列目席から膝立ちで身を乗り出して、最後部の四列目四人座席の右奥に座ってる、赤毛で金色の瞳の蛇娘こと、
「そうですよ。生徒ですよ」
金色の瞳わざとらしくパチパチしている。
他の『古代祭祀研究部』の夏合宿参加メンバーも三列目シートから振り返って、目を丸く見開いてる怜とか、口を大げさに開けてる坂本君とか、反応は様々であるが、十分、衝撃的な告白だった。
「……まさか、薫は知ってたの?」
落ち着き払ってる薫は、最後列シートの一番左側であるが、朝から板チョコレートを食べている。
甘い物に目がないのだ。
「うん、知ってたよ。まあ、蛇娘だとは知らなかったけど、問題児クラスの星組三班だしね」
チョコレートを口に入れつつ、行儀悪く当たり前のように返答した。
「え、それじゃ、ルナ先生も、
二人がうんうんと首を縦に振る。
「蛇神族の眷族だと把握はしてたけど、その風習は神話でも実際でもスサノオの時代に断ち切られていたはず。まさか、蛇神の
と
ルナ先生のその後の発言に『古代祭祀研究部』の夏合宿参加メンバーは衝撃を受ける事になるのだが。
「それで、皆さんに残念なお知らせがあります。
美里とみんなの視線がドライバー席の真田幸村先生と、助手席のメガネ先生の後ろ姿に注がれた。
「運転中の幸村先生は振り返れないので、申し訳ないけど、剣組の二班の真田幸村先生と、私、三班のメガネが三日間ドライバー兼護衛として、皆さんを護ることになってます。よろしくお願いします」
とメガネを掛けた二十代ぐらいのオタク風な先生が振り向いて挨拶した。
本名は服部信三郎で、秘密結社〈
メガネ先生は何かと都市伝説的噂の絶えない先生というか、新宿のメイドカフェにオタク仲間たちといたら、秘密結社〈
幸村、三成、信長先生などの戦国武将は、その時、ほぼ全員戦死したというが、何故か、現在、この学園の先生をしている事情は話がややこしくなるので割愛する。
チャンスがあったら、今度、訊いてみようと涼介は思った。
ただ、
これは色々とチャンスかも知れない。
「時間があったら、幸村先生、メガネ先生、坂本君と私に剣術とか教えてください。よろしくお願いします」
と、美里が早速、挨拶しつつお願いしている。
『古代祭祀研究部』の夏合宿参加メンバーも、挨拶しつつ頭を下げた。
考えようによってはメンバーの戦力も上げれるし、のんびり温泉や神社巡りも楽しめるし、いい夏合宿になりそうな予感もする。
†
「およそ一時間半の車の旅、残り一時間ほどですが、何か神社や歴史関係の質問とかあれば、僕が答えるよ」
歴史オタクのメガネ先生がそんな提案をした。
紺のGパンに白のポロシャツというラフな服装である。
最初の目的地は埼玉県さいたま市大宮区高鼻町の武蔵野国一ノ宮の氷川神社である。
東京都町田市の白鷺データサイエンス大学付属中学校からは意外と近く、東名高速道路経由ならば一時間半で到着する。
「はい、東京の神社仏閣などの聖地やレイラインなどの結界とかの話が聞きたいです」
薫が真っ先に手を上げて質問した。
薫は永年、このテーマで色々と調べてるらしいので、歴史オタクのメガネ先生の意見を聞けば参考になりそうである。
「基本的に、日本全国の聖地を網の目のように繋ぐレイラインシステムが、縄文時代から存在します。一万二千年前から存在すると言われる秘密結社〈
メガネ先生は一息つく。
「超古代のレイラインシステムで有名なものとして、伊勢神宮→富士山→鹿島神宮レイラインなどがありますが、家康の最初の埋葬地の久能山東照宮→富士山→日光東照宮などによって、この古代のレイラインからエネルギーを流して、江戸、東京を守ろうという構想を天海がやったと言われています。現代では明治政府が皇居を守るために山手線という鉄の結界を作ったり、東京タワー、東京スカイツリーなども東京の結界の一部と言われています。家康公は死んで宇宙の中心である天帝(北極星)になり、江戸を守る守護神になってるという説もあります。江戸城のほぼ真北に日光東照宮があり、家康が北極星になり宇宙エネルギーを吸収して、江戸へと流れるように仕組んでいると言われます。日光東照宮の標高と東京スカイツリーの高さは同じ634メートルである事も偶然とは思えません。久能山東照宮→岡崎城→京都のレイラインもある。古代の聖地からのエネルギーと呼び込むことによって、江戸、今の東京の何重にも守護されてると言えますね」
「なるほど。やっぱり、東京スカイツリーも関係してるのか。ということは、現代にも家康の遺言を実行した黒衣の宰相『天海』とか、陰陽師のような人がいるのかな?」
薫が目を輝かせながら訊く。
「天海の正体と言われてる明智光秀、そんな存在がいるのかもしれませんね」
メガネ先生は思わせぶりにそう語った。
それから、彼の話はまだ続くのであった。
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