第三話 古代祭祀研究部
「ルナ先生、やっぱり、ここに居たんだ。良かった」
白衣姿で黒髪は短く切られ、生徒に人気の二十代後半の可愛い先生であるが、彼女の事務机の前にルナ先生とガブリエル先生がいて、一見、三人で和やかにお茶してるようにみえた。
が、
「ルナ先生に、今回のキムジナー事件について、ちょっとご意見を
涼介は不慣れな妙に古風な言い回しをしながら、ルナ先生の表情を
ルナ先生は小造りの顔で黒い切れ長の目、黒髪の京都美人という感じで、保健の
いつも薄紫のワンピース姿で校内に出没するが、たまに時間呪術の特別講師をするぐらいで、特にクラスを担当するでなく、大体、保健室に入り浸っている。
推定年齢三千歳の魔女ベアトリス先生が『ルナとガブリエルは私より年上!』という問題発言をしているが、推定年齢一万歳ぐらいかもしれない。
ルナ先生は涼介と
副部長の
星先生は本来、角田先生の助手なのだが、回復系呪術を見込まれて、この学園では保健の先生をしている。
ちなみに、この学園の防衛システムを制御してる、量子コンピュータ実装の
「私も何ならアドバイスしましょうか?」
エメラルドグリーンの瞳と短い髪のガブリエル先生が横槍を入れてくる。
この先生は日本語ペラペラだが、どう見ても白色人種系の容姿で、純白のシスター風の服を着ている。
金髪碧眼のベアトリス先生とは違う趣きの美人であるが、魔女と天使的な対照的な存在に見える。
「いや、結構です」
涼介はきっぱりと断った。
「何よ、つれないわね。私の意見は超参考になるのに!」
ガブリエル先生は非常に残念そうな様子で、ため息をつきながら紅茶をがぶ飲みした。
ガブリエル先生については『天界大戦』が終結して、あまりにも暇なので部下に仕事を任せて人間界で遊んでいる大天使長ガブリエルではないかという都市伝説がある。
たまに、天界系魔法の特別講義をするのだが、ルナ先生共々、何故か保健室でお茶してることが多い。
涼介はこの人の正体について、黒鉄美里が小学生六年生の際に引き起こした『パンデミック・チルドレン事件』で大体、知ってるが、ベアトリス先生共々、あまり関わらないほうがいい先生に分類されている。
魔女だとか、天使だとか、時の女神だとかが実在するとして、敬い怖れつつ遠ざけるというのが涼介の処施術であった。
真面目である。
「うーん、そこは
涼介の予想通りのルナ先生の回答だが、少しヒントはくれた。
我が作戦参謀の千堂薫の予想とも一致してるが、「生徒が死にかけないと助けてくれない」というこの学園の方針はちょっと地獄すぎる。
が、
「あとね、その
と、頼みもしないのにアドバイスをくれるガブリエル先生である。
確かに、
坂本龍馬には分かってるだけで、初恋の相手説がある
その他にも高知の漢方医の娘のお徳、公家の腰元のお蝶、長崎の芸妓のお元、京都の旅宿の娘のお国など無数の愛人っぽい女性が存在している。
たった三日でキムジナーと友好関係を結んだその交渉術は実に坂本龍馬っぽい。
なので、その子孫である可能性も高い。
「ガブリエル先生、ありがとうございます」
一応、お礼を言っておく。
ガブリエル先生は満足そうにうんうんと
「星先生、お邪魔しました。また、寄らせてもらいます」
「はい、ケガとかしたらすぐに来てね」
星先生は何とも名残り惜しそうな表情だったが、小さく右手を振ってくれた。
やはり、生徒人気が高い可愛い先生である。
とりあえず、千堂薫の指示があったキムジナー事件解決のヒントだけでも得られたので、涼介としては教室ではなく、『古代祭祀研究部』の部室に帰還することにした。
†
「涼介、まあまあの成果ね。ヒントは貰ったから、基本方針を説明するよ。戦闘力に優れる『
確かに、千堂薫も
こういう人材がいれば、万が一、単独行動になっても連絡が取れるから便利でいい。
そこは『古代祭祀研究部』のお馴染みの部室である。
六台の机と椅子が迎え合わせに置いてあるが、残念ながら部員は涼介達三人しかいない。
が、今は薫の横に、桜色の瞳の
入部してくれないかと思う。
「……あれ、坂本君と美里は?」
涼介はちょっと嫌な予感がした。
「トイレに行きたいというので、美里を護衛につけたよ」
戦闘力が高い美里なら心強い。
薫が返事してしばらくして、背後の部室のドアが開いた。
「ごめん、坂本君が
強気な美里には珍しく、半泣き気味で目がウルウルしてる。
流石に、女子としては男子トイレには入りづらいので仕方ないだろう。
「先手を取られたか」
薫が舌打した。
「……大丈夫。大体の位置は分かるよ」
橘怜がにっこり笑う。
「……探知系の能力者か。お願い、坂本君を追って」
「はい」
橘怜は桜色の瞳を細めて、ゆっくりと立ち上がった。
この四人のチームなら何とかなるかもしれない。
坂本君も入れれば五人か。
新たな部員の加入の勝手な予感で、ちょっと涼介は感動していた。
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