T R A B A N T

pochi.

Phase_XX:BLUE PLANET

 青年は、観測窓の向こう──虚空の闇に静かに浮かぶ青い星をじっと見つめていた。それは希望のようでもあり、記憶の残滓のようでもある。不思議と、とてつもない郷愁の念が彼を支配する。


 ここは、音もなく時間も流れない場所だ。漂う無重力のなか、青年自身もまた、ただの浮遊物と化しているような錯覚に陥る。どこから来て、どこへ行こうというのか──目的地はあるはずなのに、それを見失う感覚。


──もう、やり切ったのかもしれない。


 叶わぬと思っていた願いは、いつの間にか叶っていた。あるいは、それすらも他人の夢だったのかもしれない。それでも不思議と、満ち足りている気がした。


 青年は窓に指を伸ばし、遥か遠くの星に触れるようにそっと撫でる。それは指先に触れるはずのない距離にあるのに、まるで掌にすっぽりと収まってしまったかのようだった。


──この旅が終わったら……

 考えようとしては霧散する未来は、彼の脳内で明滅し、定まらない。


 船内に響いたシステム音が、次のシークエンスの開始を告げる。青年はゆっくりと視線を外し、観測室の自動扉をくぐった。


「一度、集合しよう」


 誰かの声がして、耳元の通信装置に触れる。その足取りは揺るぎなく、どこか清々しい。

 長い旅の果てに、彼はようやくスタートラインに立ったのかもしれなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る