第八話 絶望の彼方
2026年1月、ジュネーブ。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)の緊急会議で、日本は厳しい非難を浴びていた。
「日本は薬物汚染の拡散を防げなかった。これは国際社会への重大な背信行為だ」
アメリカ代表の発言に、各国代表が同調した。
名古屋発のフェンタニル危機は、既に韓国、台湾にも飛び火していた。
日本の外務大臣は謝罪を繰り返したが、国際社会の信頼は完全に失墜していた。
「我が国としては...」
岩〇外務大臣の声は震えていた。
しかし、もはや謝罪では済まない段階に達していた。
名古屋の惨状を目の当たりにした政府は、首都圏への拡散阻止に全力を挙げていた。しかし、既に手遅れだった。
「渋谷で高校生20人が同時に倒れました」
警視庁からの報告に、総理大臣は青ざめた。
王建国の組織は、名古屋での成功を受けて東京進出を果たしていた。
山手線の主要駅周辺で、「アロマペン」の配布が始まっていた。
「もう止められない...」
厚生労働大臣は絶望的な表情を見せた。
アメリカは日本に対する経済制裁を発動した。
「日本は薬物テロの共犯国家だ」
トランプ大統領の発言により、日米関係は戦後最悪の状態となった。
日本製品の輸入禁止、日本企業の資産凍結、日本人の入国制限。
経済制裁は多岐にわたり、日本経済は完全に孤立した。
円相場は1ドル300円台まで暴落し、株価は半値以下に下落した。
政府は治安維持のため、ついに自衛隊の治安出動を決定した。
「戦後初の治安出動です」
防衛大臣の発表に、国民は震撼した。
名古屋市内には戒厳令が敷かれ、自衛隊の装甲車が街を巡回した。
しかし、薬物汚染は軍事力では解決できない問題だった。
父を失い、街を失った美咲は、一人で王建国との最終決戦に臨んだ。
「あなたが全ての元凶ね」
名古屋市内の廃ビルで、ついに王と対峙した美咲。
しかし、王は冷酷に笑った。
「遅すぎる。もう日本は終わりだ」
王の背後には、新たな薬物「スーパーフェンタニル」の製造装置があった。
従来の100倍の毒性を持つ新型薬物が、既に量産体制に入っていた。
東京でも薬物汚染が拡散し、ついに政府機能が麻痺した。
「総理大臣が意識不明です」
官邸からの緊急連絡に、国会は大混乱となった。
閣僚の半数以上が薬物汚染により職務不能となり、日本は事実上の無政府状態に陥った。
国連安保理は、日本を「薬物汚染国家」として国際社会から完全に排除することを決議した。
「日本は文明国としての資格を失った」
各国代表の厳しい言葉が、日本の国際的地位を完全に失墜させた。
在外日本人は強制送還され、日本は完全に孤立した島国となった。
王建国は、東京の高層ビルから日本列島を見下ろしていた。
「計画完了。日本という国家を内部から破壊した」
彼は本国に最終報告を送信した。
「次の標的はヨーロッパだ」
王の野望は、世界規模の薬物汚染へと拡大していた。
廃ビルでの戦いで、美咲は王に敗れた。
「あなた一人の力では、何も変えられない」
王の言葉通り、美咲の抵抗は無意味だった。
組織の規模は個人の力を遥かに超えていた。
重傷を負った美咲は、父の写真を握りしめながら意識を失った。
2026年3月、日本列島。
かつて経済大国と呼ばれた日本は、完全に機能停止していた。
人口の30%が薬物依存に陥り、社会システムは完全に崩壊した。
国際社会から見放され、経済制裁により孤立した日本は、まさに現代の「鎖国状態」となった。
街には薬物依存者が徘徊し、治安は完全に崩壊。
教育、医療、行政、全てが機能しない廃墟国家と化した。
王建国は既に日本を離れ、次の標的であるヨーロッパに向かっていた。
彼の背後には、新たな薬物「スーパーフェンタニル」の製造技術があった。
日本の悲劇は終わったが、世界規模の薬物汚染という新たな悪夢が始まろうとしていた。
白い粉末一粒から始まった悪夢は、ついに一つの国家を完全に破壊し尽くした。
そして、この悪夢は世界中に拡散していく。
人類の未来は、白い粉末と共に闇の中に消えていく。
―第八話 終―
次回予告:国際的な孤立
「日本は薬物汚染国家だ」
国際社会からの批判が相次ぎ、日本人の海外渡航は制限された。
東京オリンピックの追加開催も中止となり、日本の国際的地位は失墜した。
「もはや先進国ではない」
海外メディアの報道は容赦なかった。
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