第六話 社会システムの完全崩壊

2025年11月初旬、名古屋市役所。


広沢市長の意識不明から一週間が経過したが、代理を務める副市長も体調不良で倒れた。実は市役所の給茶機に、組織が微量のフェンタニルを混入していたのだ。


「もう誰も信用できない...」


残った職員たちは疑心暗鬼に陥っていた。

水道水、コーヒー、弁当、すべてが汚染されている可能性があった。


市役所の機能は事実上停止し、住民票の発行から税金の徴収まで、行政サービスが麻痺した。



愛知県警本部でも深刻な事態が発生していた。


「署員の30%が体調不良で欠勤しています」


銭形警部は本部長に報告した。

しかし、本部長自身も軽度のフェンタニル中毒症状を呈していた。


「犯罪者を逮捕する警察官が、薬物中毒者...笑えない冗談だ」


街では窃盗、強盗、暴行事件が激増していたが、対応する警察官が足りない。

名古屋市内は事実上の無法地帯と化していた。



愛知県豊〇市のト〇タ自動車本社工場では、前代未聞の事態が発生していた。


「ライン作業員の50%以上が薬物検査で陽性反応」


人事部長の報告に、役員会議は騒然となった。


フェンタニル汚染により、精密な作業が要求される自動車製造ラインが機能不全に陥った。

品質管理も不可能となり、ついに全工場の操業停止が決定された。


「日本の基幹産業が...」


経済産業省の官僚は絶句した。


名古屋市内の病院では、医師や看護師の大量離職が続いていた。


「もう限界です。患者を救うはずの私たちが、薬物に汚染されている」


名古屋市立大学病院の山田医師は、辞表を提出した。


病院スタッフの半数以上がフェンタニル汚染により正常な判断ができなくなり、医療ミスが続発。

患者の死亡率は通常の10倍に跳ね上がった。



名古屋市営地下鉄では、運転士の薬物汚染により重大事故が発生した。


東山線の電車が名古屋駅で停止せず、ホームに突っ込んだ。

乗客50人が重軽傷を負い、3人が死亡した。


「運転士の血液からフェンタニルが検出されました」


事故調査委員会の報告に、国土交通省は地下鉄の全線運行停止を決定した。



名古屋市内の全ての学校が休校となった。

教師の薬物汚染率が70%を超え、正常な授業が不可能になったためだ。


「子どもたちの未来が...」


文部科学省の担当者は頭を抱えた。


小学生から高校生まで、約20万人の児童・生徒が教育を受ける機会を失った。

多くの家庭では、子どもの面倒を見る大人も薬物汚染により機能不全に陥っていた。



名古屋証券取引所では、取引が完全に停止した。

証券会社の職員が薬物汚染により正常な業務ができなくなったためだ。


「GDP損失は月間50兆円を超える見込みです」


内閣府の試算に、政府は震撼した。


名古屋を中心とした中部経済圏の崩壊により、日本経済全体が危機的状況に陥った。円相場は1ドル200円台まで暴落し、国際的な信用も失墜した。



王建国は、名古屋市内の高層ビルから街を見下ろしていた。

かつて活気に満ちていた街は、今や廃墟同然だった。


「計画完了。日本の心臓部を停止させた」


彼は本国に最終報告を送信した。


「次の標的は東京だ」


王の野望は、日本全土の破壊へと向かっていた。


父親を失った美咲は、一人で王建国の追跡を続けていた。

警察も行政も機能しない中、彼女だけが真実を知る存在だった。


「この男を止めなければ、日本が終わる」


美咲は王の居場所を突き止め、最後の決戦に向かった。

しかし、彼女一人の力で巨大な陰謀を止められるのだろうか。



その夜、名古屋の街は完全に沈黙していた。電気は消え、交通は止まり、人々は家に閉じこもっていた。


かつて「ものづくりの街」として栄えた名古屋は、白い粉末によって完全に破壊された。


そして、この悪夢は他の都市にも静かに広がり始めていた。

大阪、京都、そして東京へと。


日本という国家が、内部から崩壊していく。


―第六話 終―


次回予告:「最後の希望」

フェンタニル蔓延により、名古屋の経済は壊滅的な打撃を受けた。

「労働力の30%が失われました」

愛知県庁の統計によると、働き盛りの20-40代でフェンタニル中毒者が急増し、ト〇タをはじめとする製造業の生産ラインが停止した。

GDP損失は年間10兆円に達し、日本経済全体にも深刻な影響を与えた。

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