第二話 医療現場の異変

救急外来の混乱


2025年8月中旬、名古屋市立大学病院の救急外来。


「また呼吸困難の患者です」


看護師の鈴木が、当直医の山田健一に報告した。

その日だけで、原因不明の呼吸困難患者が5人目だった。


「年齢は?」


「73歳の男性です。意識レベルの低下もあります」


山田は急いで診察室に向かった。患者は田中老人の友人である佐藤さんだった。


「瞳孔が縮瞳している...これは」


山田の脳裏に、ある可能性が浮かんだ。しかし、まさか名古屋でそんなことが起こるとは信じられなかった。



「至急、血液検査を。薬物スクリーニングも含めて」


山田の指示により、緊急検査が実施された。1時間後、結果が出た。


「先生、信じられない結果が出ました」


検査技師の顔は青ざめていた。


「フェンタニルが検出されました。濃度は...致死量に近いレベルです」


山田は愕然とした。フェンタニルといえば、アメリカで猛威を振るう合成麻薬だ。なぜ名古屋の高齢者から検出されるのか。



その夜、名古屋市内の複数の病院で同様の患者が搬送された。


名古屋第一赤十字病院では、78歳の女性が意識不明で搬送。


愛知医科大学病院では、81歳の男性が呼吸停止状態で運ばれた。


藤田医科大学病院でも、75歳の男性が同様の症状を呈していた。


全ての患者に共通していたのは、血液からフェンタニルが検出されたことだった。



翌日、愛知県医師会では緊急会議が開かれた。


「昨夜だけで、フェンタニル中毒患者が12人搬送されました」


愛知県医師会長の田村が報告した。


「全員が高齢者で、全員が『〇国系住民から漢方薬をもらった』と証言しています」


会議室に重い沈黙が流れた。


「これは組織的な犯行の可能性があります。直ちに警察と保健所に連絡を」



名古屋市保健所では、疫学調査チームが結成された。


「患者の居住地域を地図上にプロットしてください」


チームリーダーの森田が指示した。


地図上に赤いピンが打たれていくと、ある傾向が見えてきた。


「患者は全て名古屋市西区と中村区に集中している」


「そして、全員が〇国系住民との接触歴がある」


調査により、王建国をはじめとする〇国系住民約30人が、組織的に「漢方薬」を配布していたことが判明した。


一方、最初の被害者である田中老人の症状は急速に悪化していた。


「お父さん、大丈夫ですか?」


娘の美咲が駆けつけた時、田中は幻覚症状を起こしていた。


「虫が...虫が這い回ってる」


田中は存在しない虫を払いのけようと、空中を掻きむしっていた。


「すぐに病院に」


美咲は救急車を呼んだ。

しかし、既に名古屋市内の救急車は、同様の患者の搬送で手一杯だった。



「救急車の出動要請が通常の3倍です」


名古屋市消防局の指令室では、パニック状態だった。


「フェンタニル中毒患者の搬送が相次いでいます。受け入れ可能な病院が見つかりません」


名古屋市内の主要病院は、全てフェンタニル中毒患者で満床状態だった。



「ナロキソン(フェンタニル解毒剤)の在庫が底をつきました」


名古屋市立大学病院の薬剤部長が、院長に緊急報告した。


「全国の在庫をかき集めても、現在の患者数には対応できません」


日本では、フェンタニル中毒患者の大量発生を想定した医療体制が整備されていなかった。

アメリカから緊急輸入する必要があったが、手続きには時間がかかる。



王建国は、自宅のテレビで救急車のサイレンが鳴り響く様子を見ていた。


「予想以上の効果だ」


彼は本国に暗号化メッセージを送信した。


「第一段階完了。医療システム混乱開始。第二段階移行準備完了」


王の計画では、高齢者への薬物散布は序話に過ぎなかった。

次の標的は、若年層だった。



田中老人は、病院で人工呼吸器に繋がれていた。


「先生、父は助かるんでしょうか?」


美咲の問いに、山田医師は言葉を詰まらせた。


「正直に申し上げると...フェンタニルの血中濃度が非常に高く、予断を許さない状況です」


美咲の目から涙が溢れた。

親切だと思っていた隣人が、実は父親を死に追いやろうとしていたとは。



その夜、名古屋市内では12人の高齢者がフェンタニル中毒で命を落とした。


翌朝の新聞には、「名古屋で謎の中毒死相次ぐ」という見出しが躍った。


しかし、これは悪夢の始まりに過ぎなかった。

王建国たちは既に次の段階、若者への薬物拡散の準備を進めていた。


名古屋の街に、死の影が忍び寄っていく。


―第二話 終―


次回予告:「若者たちの堕落」

半年後、名古屋の繁華街では新たな異変が起きていた。

「これ、すごく効くよ」

大学生の健太は、クラブで知り合った外国人から白い粉末を受け取った。「新しいパーティードラッグ」として紹介されたそれは、実はフェンタニルだった。

SNSを通じて若者の間に急速に広まり、名古屋市内の大学では「原因不明の突然死」が相次いだ。

「今月だけで学生3人が...」

名古屋大学の学生課職員は頭を抱えていた。

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