蝉のない夏

【あらすじ】

　そう遠くない近未来。社会保障費の圧迫による深刻な財政赤字。インターネット発の“合理的”右派新党による長期政権掌握。AI大不況。刹那主義の流行等。様々な要因が連動し、積極的安楽死が合法かつ手軽となった日本。限られた人間だけに適応されていた安楽死の条件が、滑り坂のようにずるずると後退。現在は、“健常者”ではない人間が、安楽死を選択せざるを得ないような社会が形成された。宗教者のいない合理的な葬儀で、母親をインスタントに葬送した鈴木（僕）は、身に付けたヘルプマークをベルトに吊り下げながら、逡巡する。そして、その最中、同じくヘルプマークを付け、さながらこの社会の周縁で生きている、女の子に出会う。神さまを自称する女の子との、母親を篤く弔うための道のりの中、“障害者”という属性を一方的に…続きを読む