第七章 大人災—正義と責任
第〇〇話 なぜ…?強烈な不信感と疑念
──緊張が走る。
まだ時間に余裕はあるはずだった。
アイもリセラも南大陸にいた。
2人が厄災を引き寄せるなら南大陸で発生するはずだ。
それなのに、なぜ北大陸で発生するのか。
アイは再び焦燥感が蘇ってきた。
やはり終わらないのか?また犠牲が出るのか?と。
誰もが不安を抱える中、アイが口を開く。
「厄災の内容は何ですか?」
「アイちゃん……北大陸全土よ。動いてるわ、人間ね。心して聞いて。上層部の一斉粛清よ」
リセラの言葉に、アイたちは目を見開く。
胸に刺さった真実の余韻が消える前に、現実が再び牙をむいた。
全員、開いた方が塞がらない。
なぜそんなことが起こるのか?
内容が明らかに人為的なものだったからだ。
自然災害が起こったならまだわかる。
アイとリセラはやはり厄災を引きよせあってしまう関係。それで理解できるのだ。
なぜ粛清?誰が誰を?なんの目的で?
疑問が次から次へと浮かんでくるが、誰もが続きを聞きたくないと耳を塞いでしまう。
「まだ、気持ちも整理できていないというのに…」
「やっと、休めるかと思ったのにな…」
「……戻りましょう。急がなきゃ」
せっかく戻った故郷なのに、また別れを告げなければならない。
「おじいちゃん……」
「急いだ方がいいじゃろうな。ここにはまたいつでも来れる。転移は使えるようにしておくから、この場から飛んでいきなさい」
結界が外れ、転移魔法が展開できるようになる。
「では、皆さん急ぎましょう。それぞれの国へ送ります」
「わかった。まずは全員で中央都市だ。そこから別れよう」
全員が頷き、準備を整える。
空間がねじれ、次の瞬間、彼らの姿はかき消えた。
◇
北大陸、オルデア王国、王都。
黒煙が2,3カ所で発生し、炎が立ち昇っている。
だが、聞こえてくるはずの悲鳴はない。
「……何これ」
「どの国も、同じ状況なのかしら……?」
リセラが魔力感知で全域を調査する。
被害があったのは貴族街か?
民衆の区画はほぼ無傷。
騒ぎはなく、むしろ異様な静寂が支配していた。
「……選んでやったみたいだな」
◇
中央都市では、勇者と聖女が上層部に戻り、すでに情報収集を始めていた。
「何が起きた!?」
「各国の要人が同時に襲撃されました。上層部が殺され、犯人は不明です!」
「なんだと……!? 誰か捕まったのか?」
「いえ、逃走中です。ですが不思議なことに、民間の被害はありません」
「どういうことだ? 犯人は見たんじゃないのか?」
「いえ、それが…」
「歯切れが悪いな! はっきりしろ!」
「貴族ではなかったと思われます。そういう者がなぜここに平然と入ることができていたのか不思議なのです。まるで何か操作されているような…」
聖女が呟く。
「やっぱり何かがおかしいわ、壊されようと、いえ、壊れようとしているような……」
◇
「〇〇!」
「一体警備は何をしていた!?」
「犯人はどこだ!?」
「姿を消しました!」
「ふざけるなぁ!! 探し出せ!」
◇
誰もが何が起こったのかわからなかった。
いきなり、数人が目の前で死んだのだ。
いや、違う。殺されたのだ。
「なぜ我々は受け入れていた?明らかに怪しいやつだった。なぜだ…?」
◇
アイたちは班員ごとで分かれ、それぞれ違う場所へ向かう。
セインは貴族の立場を活かし、王都の様子を探るべく王城の方へ向かう。
「俺たちは民衆の動向を監視する。今はそれが最優先だ」
「何が起きているのか……何より、誰がそれを仕掛けたのか」
◇
各国では要人の死による混乱が広がっていた。
被害自体は軽微だったが、殺された人物が権力者であったため、政権中枢は混乱。
「あんな奴、死んでせいせいしたわ」
「でも、それで国が回らなくなったら困るだろ?」
感情の分裂が、対応の遅れを生む。
犯人捜しが進むにつれ、次第に明らかになるのは——死んだ要人たちが不正にまみれた人物だったという事実。
「アイツら、やっぱり……」
「なら、これは正義だったではないか?」
「膿が出たのであれば良かったのでは?」
「だからといって無罪になるわけではない!後始末をどうするのだ?」
「調子にのって他の者まで手をかけ始める可能性もある。犯人の目的がこれで終わりだと決まったわけではない! 探せ!」
◇
一方、民衆たちの間では、緊張が広がっていた。
「何が起きたんだ? なんで偉い奴らだけが殺されてるんだ?」
当初は混乱の中にあった彼らだったが、商人たちが状況をまとめて広め始める。
「どうやら、要人だけが狙われたらしい」
「俺たちは無傷なのか?」
状況を知るにつれ、思い出される日々の理不尽。
抑圧、課税、不当労働、法の不平等。
「悪が粛清されたってんなら、この機会に俺たちも正義を訴えるべきでは?」
「具体的に何をだ?」
「俺たち職人だっていままでどれだけ不当な扱いを受けてきたかわかるだろう?今回粛清されたやつらがそれに関わってるなら俺たちだって言いたいことはあるぜ」
「いままで損した分、返せってこったな」
「そういうことだ」
「粛清は終わっているんだ、さらに俺たちが乗ったら今度は俺たちが悪になるんじゃないか?」
「なら、いままでのは水に流せってこと!? 何人やめたと思ってんだ?」
「この機会を逃したら、一生変わらないんじゃないか?」
一人の声が、不満を掘り起こす。
その場にいた誰もが、自分の不満を語り始める。
「こんな国、いつかは変わらなきゃ……!」
雰囲気は変わり始めていた。静かだった怒りが、形になろうとしていた。
「暴動を起こすな、とは言えない空気になってきてるわね……」
気配を消して民衆の様子を伺いに来ていた聖女が小さく呟いた。
まずは教会に働きかけて民をまとめないと。このままだとマズいことになるわ。
◇
セインはひとり、王都の外門へと歩を進める。すでに街道には緊急封鎖の看板が立ち、兵たちの顔は張り詰めていた。
「誰も通すな、という命令が出ている」
「……セイン=アルマだ。上からの情報収集のため参った」
衛兵の一人が顔をしかめながらも、すぐに隊長に報告が入る。
「アルマ家…特別依頼処理班の人間だったな。……通してやれ。あんたらに依頼があるかもしれん。見ておいた方がいい。中は地獄だ」
王都内部。
焦げた石畳。崩れた石造りの屋敷。
そして、騎士たちの話す声。
「〇〇卿と××商会の主がやられた。刺されたんじゃない。まるで一瞬で……首が飛んだようだった」
「犯人は?」
「見たことない顔だった。誰も制止できなかった……いや、誰もが“当然”のようにその場に居させていた」
「……どういうことですか?」
「だから……わからんのだ。なぜか“入ってきて当然”という空気だったんだ。今思えばおかしい。だが、あの瞬間、誰もそれに疑問を持たなかった」
セインは背筋に寒気を覚える。
(これは……理の異常……。直接、世界に手を下してきているのか? やっぱり何かが捻じ曲がっている。周りの人間を全て洗脳するなど並大抵のことではできない。それも何の準備もなしには…)
何か計画されていたとか、昔から間者がしのびこんでいた、などならわかるが。
よくわからないやつが入ってきて殺して逃げた。
そのまま言葉にしたら余計に不気味さが増す。
セインは顔を上げ、遠く立ち昇る煙の向こうに、何か“目に見えぬ手”の存在を感じ取っていた。
◇
北の拠点に戻ったアイたちは、この後の動きについて話し合っていた。
「まず教会に話をする。民衆をまとめるには教会に協力してもらった方が早いだろう」
「暴動が起きるときっていうのは権力はあてにならない。信頼が重視される。権力に訴えたら逆効果だ」
班員たちはもちろん動くつもりだが、一歩間違えると抑えられない事態になりかねないため、慎重だが素早く話をまとめていく。
そのときだった。
家の外の空間が歪み、黒い裂け目から十数人の人影が現れた。
「……誰だ!?」
気配を感じた班員は外へ出る。
異国の衣をまとい、傷を負った者、血を帯びた者。
だが、敵意はない。
彼らは揃って膝をつき、声を揃える。
「観測者様。ご命令を」
アイとリセラは息を飲む。
「え?」
「……あなたたちは?」
観測者を知っている。民衆が?ありえない。貴族でもなさそうだ。しかもなぜわたしたちが観測者だと特定できている?なぜこの場所にいるとわかる?
「各国の“処理”を完了しました」
答えたのは、目の鋭い青年だった。
オルデア王国の粛清に関わった一人——と、リセラが直感的に把握する。
「なぜ、私たちのところに来たの……?」
「神の声が聞こえたのです」
その答えは、他の者たちも同様だった。
「ある瞬間、頭の中に響きました。“行え”と」
「手が、勝手に動きました。魔力が暴走したわけではありません。むしろ……制御は完璧だった。恐ろしいほどに」
「意思の力が吹き飛んだみたいだった……けど、でも、これは自分の意思だった気もする……」
矛盾する証言。
意思がなかったという者と、自分で選んだという者が、同じ“声”を聞いて行動したという。
「あなたたちは……自分が何をしたか記憶はあるの?理解しているの?」
アイが問いかけると、全員が頷いた。
「命じられたと感じた。でも、それが“正しいこと”だとも感じた。だから、やりました」
「私は、家族を残してきました。でも、迷いませんでした。……いや、本当は、迷ったんです。けど、動いていたんです。体が」
まるで“何かに選ばれた”かのように。
沈黙のなか、リセラだけがわずかに眉をひそめていた。
なぜか北大陸中の大罪人たちがここに集結している。
「この状況まずくないかしら? 私たちが粛清を命令したみたいになってるわよ?」
「人間を、命を弄ぶなんて…」
「この件で私は世界の理に不信感を抱きます。いえ、前から抱いていましたが確信がもてました。やはりこの世界は間違っています!」
「こんなの納得いかない……なんで善良な人たちが殺人者扱いされなきゃいけないんだよ!」
と、レオが声を上げる。
「でも、なるべくしてなったんだと思う。いずれこうなると分かってたなら、今のうちに発散しておいた方がいいんじゃ……」と別の班員。
「正義がなければただの暴力よ」フィリアが静かに返す。
正義とはなにか? 暴力とはなにか?
どちらも正しいように思えるが、道を選ぶことはできない。
「それって……俺たちは操られてたってことか?」
「あれは神の声じゃないのか?」
「やったことは犯罪だが、殺したやつは悪事に手を染めていたやつだけだ」
「記憶はあるんです。確かに、自分の足で現場に向かっていた……でも、途中から誰かに背中を押されたような……そんな感覚が」
「私は、涙が止まらなかった。家族の顔が浮かんで、それでも体が止まらなかった」
「……許されないことをしたと、わかってる。でも、どうしても……“自分がやらなきゃ”って気がしてた」
その感情は、責任か、それとも錯覚か。
彼らの行動は、“意志”か、“装置”か。
アイは歯を噛む。彼らを責める気にはなれなかった。
班員たちは怒りと困惑に揺れる。
「やらされたのに、極刑!? そんなのおかしい!」
「家族だっているんだぞ!」
アイとリセラは選択を迫られる。
「逃げろと命じるべきか……? それとも……」
世界の理による責任の放棄。
リセラが呟く。「この世界、どこまで腐ってるの……?」
だが、班員たちは全員、口を揃えた。
「俺たちは彼らを見捨てない。責任を取ると言うなら、俺たちも共に立つ」
アイは深く息を吸う。
「民の声を集めて。どう責任を取るか、自分たちで決めて。それがあなたたちの“意志”になる」
彼らは動き始めた。
一人が言う「自分たちで決めたこと。これが責任というものだ」。
民衆の武器は数だ。しかし今回は少数による実行で結果も出した。
「俺がお前たちに伝えたかったことは何か?」
男は処刑台の手前に立ち、振り返って民衆に声をかける。
「やればできることか? 違う。 希望をもつことか? 違う。希望をもってもそれが失われてしまえば再度もつことは遥かに難しくなる。 勇気を持つことか? 違う。勇気だけで力がなければ空回りするだけだ。力があれば何でもできることか? 違う。理由のない力は暴力でしかない。俺が本当にお前たちに伝えたかったこと。
それは……あきらめないことだ!」
「どこかで受け入れていなかったか? 自分のたちの不遇を。こんな国だからと、そういう仕組みだからと、こういう世界だからと。だが、どこかで抗おうとしていなかったか? なぜ自分たちがこんな目にあうのかと。なぜ自分たちの努力は報われないのかと。このままでいいのかと」
「おかしいことはおかしいと、ダメなことはダメだと、言い続けなければならない。俺たちは弱者だ。俺たちがもてる唯一の武器は何だ? 数か? どんなに数がいてもどこかで誰かが挫ければそれが連鎖し、いづれみんなやめてしまうだろう。ならば何も変えられない。だからこそ、あきらめてはいけないのだ! あきらめない心こそ俺たち弱者がもてる唯一の武器だ!」
民衆に裁かれることを選んだ。
国から、司法で裁かれることは選ばなかった。
結局、権力には逆らえないと、そう思ってほしくなかったからだ。
権力に真っ向から逆らえといっているわけでもない。
勝手にやったことだからこそ、自分たちがやった責任は自分たちで取らなければならない。
「そのことを忘れないでくれ」
処刑台にあがり、処刑の準備が進めるよう促す。
だが、準備が進まない。
「なあ、本当にあんたはこれでよかったのかよ? 正義に犠牲は必要なのかよ…?」
「わからない。だがおれは選んだのだ。それだけだ。そこに後悔はない」
「…あんたの意志は俺が継ぐぜ」
「継ぐ必要はないさ。おまえたちが、民衆たちが、忘れないでくれたらそれでいい」
処刑という私刑の準備が整う。
最後に男は集まった民衆たちを見回す。これが最後の光景になるだろう。
「おまえたち……こんな俺のために泣いてくれるのか。なら俺も祈ろう! その涙がお前たちの未来につながることを!」
彼の意志を継ぐ民衆の手により、彼らは操られた道具ではなく、本当の英雄として、人として死んでいった。
◇
血の跡より重い民衆の沈黙。誰も話さない。だが誰もが暗い顔で俯いているわけでもない。
自分たちが出さなかった勇気。それを彼は出した。命をかけて。
希望を捨てずに、諦めずに行動することの大事さは伝わっただろうか。
彼の死はなんだったのか?
何のために死んでいったのか?
誰かがやってくれるだろう、自分は関係ない、そういう国だから…と、誰もが現実から目を背けていた。諦めていた。どこか他人事だった。でも何よりも自分たちが当事者であることを思い知らされた。
誰の目も死んではいない。力強い瞳だ。希望は確かに灯っただろう。
彼の最後の言葉。
確かに伝わっただろう、彼の気持ちは。
これが正義なのか、これが正しいことなのか、それはわからない。
確実に言えるのは、彼らが人としてそれを選んだことだ——。
──沈黙が、すべてを包んでいた。
処刑を終えた民衆たちは、誰ひとりとして口を開こうとしなかった。
すすり泣く者も、声高に叫ぶ者もいない。ただ、そこにあったのは——考えるという時間だった。
アイは処刑台の遠くから、その光景を見届けていた。
「……これで、よかったの?」
誰にともなく、そんな言葉が漏れた。
答える者はいない。隣に立つリセラでさえ、黙ったまま、ただ遠くの空を見つめていた。
風が吹いた。処刑場に張られていた幕がはためき、淡い影を地面に落とす。
その影はまるで、失われた命たちの形見のようだった。
「ねえ……」
アイはゆっくりと振り返る。そこにいたのは、一人の少女だった。
「父がやったことは正しかったの?」
実行犯の一人。処刑された男と血の繋がった家族だろう。
形が違えど悪を捌いたのだ。
父を失った悲しみはあれど、家族なら誇らしいと思う者だっているだろう。しかし、この少女は疑問を投げかけてくる。納得したいが、納得がいっていない。なぜうちの父がやらないといけなかったの?って。
少女は自分と同じぐらいの少女に答えを聞きたかったのだろう。
「あなたの父は選ばれた。運命に」
「……父が最後に言ってた。『俺は、選ばれたんじゃない。ただ……選ばされただけだったのかもしれない』って」
アイはその言葉を胸に受け止めた。
焼きついたように、離れなかった。
選ばされた。
理によって? 神によって? それとも——この世界そのものによって?
アイはそれ以上、その少女に、なんと声をかけていいかがわからなかった。
◇
「リセラさん……私たちって一体なんなのでしょう」
「……もうわたしもわからなくなってきたわ。けど……」
リセラは、足元の血の跡を見つめながら言葉を継いだ。
「でも、少なくとも彼らは、自分の意志で最後を選んだ。強いられたのではなく、自分で……」
「そう、見えただけじゃない?……本当に“意志”だったの……?」
アイの声が揺れる。
「どこまでが自分の意志で、どこからが“仕組まれた流れ”なのか。
そんなこと……もう誰にも、わからないのかもしれない」
彼らは「神の声を聞いた」と言っていた。
魔力の制御ができなかったとも、自分の体が勝手に動いたとも。
そのどれもが、理が彼らに課した命令だったとしたら——
この死は、ただの仕組まれた結果だったのではないか?
だとすれば、彼らが最後に見せた勇気も、意志も、すべて——嘘だったのか?
アイは息を呑む。そして、両の拳を強く握った。
選択肢のない選択をしなければならい。人はそれを強制と呼ぶのだ。
割り切らなければいけない。受け入れなければいけない。犠牲にならなければいけない。
「もし……これが“理”の選ぶ正しさだったとしたら……私は、それに従いたくない」
リセラが小さく頷く。
「正しさを道具を扱うように定めるなんて、もはや“理”じゃない。ただの命令機構よ」
「私は……そんな“理”を、この世界を信じない」
空が灰色に染まり、遠くで雷のような音が鳴った。
まるで、世界そのものがわずかに軋んだように——。
アイの感情が揺れる。
「これが、この世界だというのなら……あまりに都合が良すぎます」
◇
特別依頼処理班の者たちも葬式の雰囲気だ。だれもが葛藤を続けている。
これは正義だったのか?
責任はどこにあるのか?
正義は犠牲を伴わなければいけないのか?
「わからねぇ。答えなんてねぇよ」
「これが1週間も経ってない出来事だとはな…」
「数年分の出来事が凝縮されたようだったな」
これで何か変わるのだろうか?
変わるだろう
「見届けたのか?」
カイルはアイに声をかける。
「はい…」
少女は悲壮な表情をしている。どれだけこの少女は苦しめば済むのだろう。
「確かにみんなの心に火が灯りました。でも必要な犠牲だったのか、これが彼らの運命だったのか?って考えるとなんとも言えない気持ちになります。それに自分が関わっているとなるとなおさら」
「俺たちでも割り切ることなんて簡単にはできねぇよ。将来、彼らは正しかったと、そう言うことができたら…でも、未来のことなんて誰もわからないからな」
カイルも複雑な気持ちだ。一呼吸おいてから続ける。
「ただ、あのときの彼らはやっぱり英雄だったってなれば、少しは報われるのかもな」
「いづれ誰かがやらなければならなかった。でも、その誰かが一番問題なのです。本来は国がやるべきことでは?仮に犯罪者が行い、余罪として今回の犯行を重ねていたら、何も問題なかったのでしょうか。善人である彼らだからこそ意味があったのでしょうか。わたしはもう……わからなくなっています」
「俺もな、わからねぇ……わからねぇよ。こんな事が起こる前にもっと何かできていたんじゃないのか?って思うんだ。いまを生きる俺たちがなんとかしないといけない。未来に託すなんて都合のいいことは言えねぇな。それはいまを全力で生きて行動してるやつだけが言えることだ」
見て見ぬフリをしてきた。問題を先延ばしにしてきた。
先延ばしすればするほど、取り返しのつかない大きな問題になっていく。
過去にこれがあったからと、あの時の出来事はお前たちのせいだ、なんて未来永劫揉めることになる。当事者たちが解決しないと問題は本当に解決したことにならないんだ。先延ばしして良いことなんてないのだ。
「彼らの家族に関してはどうなるんだ?」
「今回はお咎めなしだとさ。厄災として処理するそうだ…。だが念のため中央都市で保護しているらしい」
結局、犠牲になったのは実行犯十数人のみ。
王よ、今回の件…
いうな。あの者たちを責めるのであれば、それはそのまま我らに返ってくる。そうであろう?
はい…
余がもっと何かできていたはずなのだ。彼らは彼らなりの責任の取り方を選んだ。もはや何もいうまい。これから忙しくなるぞ…
はい、新しい法の制定、それに伴いいくつかの法も整備を行い不正に対してもっと厳しくしていくと…
そうじゃ。あの者たちの死を軽んじてはならん。それぐらいのことをやってのけたのだ。たとえよくわからない力が働いていたとしても。もしこれが神の意志ならば
あれは厄災であったと…?
他国も我が国と同時に行われた。そんな連携ができる存在など他にはおらんだろう。そう考えた方が自然じゃな。
我が国が厄災を受けたとなれば……それは受け止めねばなるまい。厄災であればどのような目的であったと考えるか?
人間による厄災は過去に例がございませんが…もしそうであれば、見かけだけの均衡は許さないということかと。
そうだ。真の均衡とは何か?それを考えてこなかったのが過ち。常に考え続けねばならない。時代によって形を変え、意味を変えるものだからな。
えぇ、ところで観測者は見当たらなかったので?
見当たりませんでした。しかし、実行犯たちは突然姿を消したとのことでしたので、どこかで指示を出されていたのではないかと思われます。
〇〇様…後始末は完了しました。民も落ち着いてきました。もう大丈夫です。
そう…ご苦労様。あなたもゆっくり休みなさい。
暗い顔をしていた。すでに内部の腐敗が始まっていたことに衝撃を隠せなかった。まさかあの者が悪事に手を染めていたとは。
それにしても見事な仕事でした。どこからあの証拠をつかんでいたのか。誰の仕業かわからないのが真に気持ち悪いことです。
亡くなったあの者たちが黒幕ではないと?
誰に聞いても普通の民だった。あの者たちが暗部のような動きを行い秘密裏に計画を立て実行し成功させたとは考えづらい。我々には気づかせずに…
厄災である可能性が高いと考えられます。他国も一斉に被害に遭ったと。
被害ね…その言い方は危険だからやめなさい。厄災であれば悪いのは我々になるのよ。あの者たちは代行しただけ。そうであれば…我々の怠慢の結果、犠牲になった。そう考えることができるでしょう。
そんな!そんなことは—
そうでないなら、大陸全土で偶然、同じ時間に、同じ目的で、同じやり口で同じ結果を出した。ありえないわね。そんなこと誰ができるのかしら?この世界で。
……
精霊だとしても難しい。神の代行者、観測者ぐらいしかできないわ。それか神そのものか…。いづれにしても我々は裁かれた。その事実は変わらないでしょう。真摯に受け止めることね。
承知いたしました…。
そういったが解せない部分がある。なぜ人間なのか?厄災が人間など過去に聞いたことがない。前の厄災も含め、大陸全土がこの短期間にこれだけの厄災を受けるなど考えられなかった。世界が歪んできている?それにしてはこれ以上ないほど的確で綺麗な裁きである。
「もしかしたら、これはまだ始まりなのかもしれないわね」
まだ何か起こる。そのような予感がしてしょうがない。前例のないことが多発しているのだ。かといって、何をすれば良いのかが見えてこない。
平和に何事もなく暮らしていたはずだった。特に大問題になるようなことはなかった。殺された者たちは許されない罪を犯していたが、それでも厄災を受けるような事柄なのだろうか?
やはり胸騒ぎがおさまらない。
「中央都市に行って話をしてきます。少しの間、この国から離れます。その間、指揮権を預けます。頼みましたよ」
「私もお供したいのですが」
前回、中央都市に行ったのは15年前。
魔王と闘ったのが随分前のように感じる。
では〇〇に留守は任せましょう。あなたも…知っておくべきでしょう。真実を
厄災、観測者。その歴史を知る者はまだいるが、詳細に関しては知るものしかしらない。
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