【柑月渚乃を演じていた】

 私はあの頃、柑月渚乃を演じていました。


 ペンネームと言いつつ、柑月渚乃は私の中では物語の登場人物のような、決まったキャラクターの一つで、その名を使う時はいつも演技をしていました。……そういうつもりでした。


 でも、今思えばそんなことないと思います。

 

 ――彼女は、私の影でした。

 

 私の他人に見せられない“グロテスク”な部分を文学的に解釈し、設定を加え、再構築した姿が彼女でした。


 


 皆さんにとって、創作とはなんでしょうか。

 ストレスの発散場所でしょうか。心が通じ合える瞬間でしょうか。新たな発明を形作ることでしょうか。


 柑月渚乃にとってそれは、自分が代替されてしまうかもしれないという現実から、逃げる手段でした。


 彼女は、“社会の歯車になる”という言葉に対し、異常なまでの反応を見せました。

「君みたいな人間はいくらだっている」そんな言葉を、一回も言われたことないのに毎日気にして生きていました。


 彼女には世界が地獄色に見えていたのです。

 私はそういう人が大好きな人間でした。



 

 推し文化やAIにYouTube。

 昨今、若者はリスクを冒すことを避けようとする傾向が増しているように思えます。


 恋愛はリスク、結婚もリスク。アクティビティはリスク、挑戦だってリスク。

 人間関係もわざわざぶつかり合わなくたっていい。喧嘩して仲良くなる必要なんてない。

 

 周りに合わせて、それなりの生活が出来ればそれ以上望む必要もない。普通が一番だ、って。


 私達は“生きている”のでしょうか。それとも“生存”しているだけなのでしょうか。

 

 柑月渚乃は生きるのに誠実な子でした。

 だからこそ、沢山辛い想いをする子でした。

 

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