5機目

「まずはヴァーニマエの方から説明しよう。グベルニーターについては後で話すよ。少し関係ない話に聞こえるかもしれにけど、ちゃんと意味のある話だ。覚えておいて欲しい。話は20年前に遡る。この日人類は新たな物質を作り出す。アニマと名付けられたこの物質は人の大きさを後天的に変化させることができた。あぁ、別に身長を5cm10cm盛るようなどうでもいいレベルの話ではない。5m10m単位での伸縮を可能にする物質であった。」


ここまでの元宮の話で、琉翔は何かに気づいた顔をする。


「察したようだね。この物質の登場によって、人類は戦争に新たな可能性を見出すことになる。そう、人はどこまで行っても争う事しか考えない。非常におろかな生き物だよ。でも、もっと愚かな考えを持った人物によってここから悪魔の兵器が出来上がる。”アンドリー”という製品を聞いたことがあるかな?」

「それは知っています。人体の欠損した部分を特殊有機金属だっけ?まぁ、それを使って補うっていうものですよね?」


「そうだ。あれは今世紀最大の発明といっても過言ではない。だが、それを悪用し、あろうことか軍事転用した者たちが出てきた。確かにあれは再生治療に使うにはいい技術だが、あれをアニマで巨大化させた人の全身にまとわせ、装甲にすると考えた人物たちが出てきた。こうしてできた特殊有機金属を纏った巨大化した人型兵器をヴァーニマエと呼んだ。これにはアンドリーを開発したシンギユラ博士も泣いていたよ。だが、これで戦争の仕組みは大きく変わった人が直接武装すれば、戦艦も戦闘機も戦車もいらない。全ての兵器はこれ一つでいい。そのうえ、非戦闘時は普通の少女だ。場所もかさばらない。他の兵器を圧倒する兵器の誕生だ。君もここからは知っているだろう。どこでどれだけ使われたかとかね。あの日の衝撃は今でも覚えているよ。」


僕は横を見る。そこには柚がいた。柚の体がそんな風になっているのかと少し観察してみた。しかし、今見えている肌を見たところで、彼女が本当に金属で覆われているとは思えない。


「彼女は今、普通の状態だよ、琉翔君。普段は少女の見た目。でもその体の中にはヴァーニマエになるための情報をコアとして埋め込まれている。そして特殊有機金属は彼女の衣服になってる。」

「なら、そのコアを外せば、柚はもとに戻るのか?」

「いや、それはまだ、難しいだろう。まぁ、コアと人体の結合については一旦置いておくとして、ここからが本当に話したかったことだ。柚君。君も知らないこと、忘れていたことが含まれる。心して聞いてくれ。」


僕は生唾を飲み込んだ。


「ところで、琉翔君。このヴァーニマエには誰が選ばれたと思う?」


もう一度、柚の方を見た。


「僕らぐらいの少年少女ですか?」

「惜しいね。正解は君ぐらいの女の子、特に中高生だ。理由は単純。体の中に空間を作りやすいからだ。これについてはわたしよりも、琉翔君の方が詳しいだろう。ヴァーニマエのコクピットに座ったんだからね。だが、詳しい話はやめよう。デリケートな部分の話も含まれるからね。まぁ若めの子を使うのは体力が高いからってのもあるけどね。」


え?じゃあ、やっぱりあの戦闘の時僕は柚のおなかの中にいたってこと!?柚の方を見る。


「なんで今更気づいたって顔してるのよ。普通あの時理解できるでしょ。」


柚も少し恥ずかしそうにしていた。


「では質問を変えよう。この中高生の少女はどこから来たと思う?」

元宮のこの一言に柚の顔色が変わる。


「そう。この現代社会からだよ。彼らは自分たちで新たな命を生み出して、作る場合もあるが、ゆず君、君はどこからか連れ去られて、改造された可能性が高い。そちらの方が安く作れるらしいからね。」


僕は横にいる柚を見る。しかし、彼はこのことを予想はしていたような顔をしていた。研究所にもいた同ように体を機械のように改造された状態の少女達をみてきた。しかし、こうやって第三者から事実のように突きつけられると驚きが隠せない。と言った様子をなぜか見せていなかった。でもなぜか最後は取り繕うかのように当然の疑問を元宮さんにぶつけた。


「わ、私はいったい誰だったんですか…?」

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