第3話

流風は自分の家からグッズを取りに行き、花灯に渡すと興奮したのか「きゃあ」ではなく「ぎゃおおおおん」と叫びながら喜んでいる。


オムライスをパクパク食べる流風。

「ありがとうございます。1食浮くだけで助かります」

「いいえ。人気アプリに出てるなら人気声優さんしじゃないんですか?」

「人気アプリで俺の役も人気ありますが、これだけじゃ食ってけません。追加ボイスとか歌ったり年一回のイベントとかあっても、それ以外はまともに仕事はないんです。アニメのオーディションもなかなか通らなくて……日雇いで生活してるんです」

茉莉にはわからない業界だが、なかなか厳しいようだ。

「すみません…こんな話しして…」

「声優業界の貴重な話ですね。そうそう、花灯も声優目指してるんですよ」

空気が重くなりそうだったので話題を変えることにした。

「そうなんですか?」

「はいっ!」

「未来の後輩か〜花灯さんが声優になった時にはご馳走してあげられるように頑張るよ」

ニコッと笑う流風。

花灯が声優について色々と聞いていた。

本職から質問できるなんてめったにないだろうから花灯にとっては有意義だろう。


「あの透くんの声をやってくれませんか?」

「すみません、できません」

「え〜…」

花灯は残念そうにしているが流風は困っていた。


「先輩から声は商売道具なんだからプロとして仕事以外は使うなって教えなんですよ」

流風の説明に納得したようで納得してない複雑な顔の花灯。

「透の声はできませんが、代わりに外郎売りを聞いてくれませんか?」

「外郎売り?何かの童話ですか?」

首をかしげる茉莉に流風は外郎売りとはどこの声優専門学校や養成所での必ずやるトレーニングで、滑舌、演技、発音と学べるんだとか。


「わ〜…聞きたい!イケメンボイスでやってくださいね〜」

花灯もノリノリなようだ。

「はい、ではいきます!……拙者、親方と申すは…………」


長台詞を何も見ずにスラスラと喋り、声も普段とは違う色気のある低音ボイス。

茉莉は心の中で「素敵…」と呟く。

それになんだか楽しそうで生き生きしている。


「……ういろうは、いらっしゃりませぬか。……ふぅ」

「すごーい!」

茉莉も花灯もパチパチと拍手。


「花灯もすごーいばっかりじゃなくて頑張らないとね」

「わかってるよ〜!やりたくない〜」

花灯の声優の道は遠そうだ。

そのあと、少し雑談し花灯と流風も帰っていった。



部屋に一人になった茉莉はスマホで流風の出ているゲームアプリをダウンロード。

コーヒーと流風のお土産のお菓子をつまむ。

「美味しい」

コーヒーのお供にちょうどいい甘さだった。


アイドル育成ゲームでプレイヤーは社長設定なようだ。

チュートリアルが終わり、無料ガチャ10連ができるようで引いてみる。

こういうゲームは無知なのでわからないが、どうやら初ゲットしたキャラは一言挨拶ようだ。

「あ……」

『おはようございます、社長。今日からここに所属する、城田透です。宜しくお願いします』

花灯の推しであり流風がキャラボイス担当の「透」というキャラがでる。「透」の声は先程の外郎売りの色気のある感じとは違い、なんだか優しそうなキャラだ。

素人からすれば「すごい」の一言。

こんな綺麗な声なのに仕事に恵まれないのかとモヤモヤする。










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