『配信者、ダンジョン突入中。【コメントで攻略】』
みなと劉
第1話
『配信者、ダンジョン突入中。【コメントで攻略】
「えーっと、配信開始っと……よし。今日も“あの”ダンジョンから、生中継するからな!」
カメラに向かってピースサインを決めながら、俺は地下鉄の入り口へと足を踏み入れた。
最近、渋谷駅の13番線ホーム奥に“異世界ダンジョン”が突如として出現したのは、もうニュースにもならない日常だ。政府は「危険区域につき立入禁止」と言ってるが、バカな俺たちは逆にこう考える──
「これ、バズれるチャンスじゃね?」
ダンジョンに挑む配信者は「ダンジョンストリーマー(通称:ダンスト)」と呼ばれ、今や一種の職業だ。中には登録者100万人超えの猛者もいる。でも、俺は違う。
登録者:37人。再生回数:平均14回。推定年収:3円。
それでも、夢があると思った。命がけで配信して、奇跡の生還を果たせば──
その一瞬で、世界は俺を見つける。
「本日のチャレンジは、第三層“血の回廊”! 噂じゃ、一歩進むごとにHPが1減るとか……俺、回復アイテム? ありません!」
コメント欄が一斉に荒れた。
> 「バカかコイツ」
「死ぬなよw」
「逆に応援してきた」
「右の壁にヒントあるって前の配信で言ってたぞ」
「回廊のスイッチはしゃがむと見える」
そう、こいつら──視聴者は、俺の攻略仲間だ。
地下鉄のホームは、まるで時が止まったかのように静かだった。
誰もが知っている。
ここでは、“死なない”。
死なないというより、「死という概念そのもの」が、この世界には存在しない。
──心臓が止まっても、生きている。
──首が飛んでも、しゃべれる。
──肉体が消し飛んでも、明日の朝には元どおり。
そのくせ「痛み」はあるし、「恐怖」はリアルだ。
地獄みたいな世界で、天国みたいな感覚が流れてる。
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「──あ、やっべ……敵、来たわ」
画面に映ったのは、四本腕の人型獣。
通称“コメント喰い(コメグル)”。
視聴者の言葉を食らうことで強化され、下手に配信してるとこちらの攻略アドバイスが敵の強化材料になるという、配信殺しの敵だ。
> 「逃げろ!」
「こいつは音で誘導できるぞ」
「あ、もうコメント食われてね?」
「視聴者数減ってるw」
「だーから言ったろ、対コメグル戦は“無言プレイ”が鉄則なんだって!!」
俺は必死に口を押さえながら、無言で階段を転げ落ちた。
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その先にあったのは──“老い”が凝縮された空間。
かつて「年を取る」という概念があった時代、人々が畏れていた現象を再現するゾーンらしい。
皮膚がしわしわになり、骨がきしみ、歩くのすら辛くなる──
けれど、「死なない」。
つまり、“老い”たまま、永遠に苦しむゾーンだ。
「やっべえなこれ……。あ、あれ?」
画面の右下、俺のアバターの顔が……どんどん、崩れていく。
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> 「老いバグきたwww」
「ゾンビみたいな顔で草」
「むしろバズりそう」
「老いループで精神崩壊くるぞ、切れ配! 切れ!」
「……いや、まだだ。
ここを抜けたら、伝説の“年齢階層”があるって聞いた。
そこにたどり着ければ──
もしかしたら、“人生”ってやつの正体が、配信できるかもしれない!」
俺はボロボロの体で、カメラを持ち上げた。
視聴者が望むのは、“正解”じゃない。“地獄の先の感動”だ。
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