花天月地【第5話 星を詠む鳳】

七海ポルカ

第1話



「――淩統りょうとう殿!」



 陸遜りくそんは息を弾ませて駆けて来た。

 淩統は馬に跨る所に呼び止められ、こんな時に限って陸遜を足止めしなかった甘寧かんねいに心の中で容赦のない罵声を浴びせた。

「偵察部隊にご一緒させて下さい」

 風が出て来た。

 嫌な感じだ。

 淩統は今回の戦に関して、妙に胸騒ぎがしていた。


「……それは、お断りしてもいい願いですか?」


 腰に下げた剣をよく確認しつつ、淩統が陸遜を振り返らずに尋ねて来た。

 陸遜は瞳を瞬かせて、唇を引き結ぶ。


「……いずれにせよ、私は見に行くことになると思います」


 呂蒙りょもうが許可を出したのだろう。

 淩統は陸遜には聞こえないよう、溜息をついた。

「では、私と行きましょう。――りく軍師に馬を!」

 すぐに副官が馬を連れて来る。

 跨ると、城から陸遜の副官である虞翻ぐほんが出て来た。


仲翔ちゅうしょう殿、私は淩統殿と【剄門山けいもんさん】の様子を見て参ります。

 呂蒙殿から西の守備台への増援を預かっていますから、貴方に送り届けていただいてもよろしいですか。

 貴方はそのまま守備台で待機してください。

 帰りに私が迎えに行きますので」

 虞翻は一つ、頷いた。

「お気をつけて」

「大丈夫です。龐統ほうとうの展開させている陣容を、見て来るだけです」


「出発する!」


 偵察部隊が動き始めた。

 淩統と陸遜も馬に合図を入れ、左右から一団を追い抜き先頭に立つ。


 陸遜の表情を見た。

 彼はただ前方を見据え、飛ぶように馬を駆らしていた。


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