第15話 緊急招集
ルイン王国王都アクアリア。
多くの者が観光又は商売の為に集まり、日々多くの人々が賑わいを見せていた。
そして、王都の中心には人気は目立つ高い建物。
まるで観光名所の様に集まる人々を魅了する綺麗な城が王都の外まで目を光らせるかの如く聳え立っている。
王城。
これこそ、この国を象徴する王族が暮らす住まい。
王の家であった。
これはカーフェが目覚める数日前の出来事。
王城の内部では、一人の男性が高価な着物に身を包んだ男性の後を早足で歩いていた。
メガネをかけ、黒髪を目にかからない長さに切りそろえている。
癖のない髪をそのまま下ろしており、はね一つない手入れの行き届いた髪が彼の動きに合わせて僅かに揺れていた。
ヘリッツ・ロウル。
それが彼の名前であった。
ロウル家は代々王族に使える一族であり、彼はつい先日、父から秘書の任を引き継いだばかりの新米であった。元々は皇太子の付き人てあったが、父の病気の関係により、いきなりろくな引き継ぎもなく、秘書となってしまった可哀想な男性である。
現在彼は国王の後を追って足早にとある場所に向かっていた。
「すまないな、ヘリッツ。私の仕事が長引いてしまったばかりに」
国王は前を向いたまま、謝罪の言葉を述べる。
その声からは申し訳なさを感じる。
「クルヴィス様がお気になさる事ではありません。その様な事態になった時のために我々がいるのですから」
彼は秘書として当然だと主張した。
秘書としての期間は短いが、自覚は持っている。
彼は極めて生真面目な人間であった。
長い渡り廊下を歩いていると突き当たりにようやく目的地が見えてくる。
そこには2名の騎士が待ち構えており、クルヴィスに気づくや否や、頭を下げた。
「お待ちしておりました」
向かって右側にいた騎士が口を開く。
「すまない。遅くなった」
「最上位騎士の皆様方は既に集まっておられます」
左側の騎士が言い終わるとすぐに2名の騎士が扉を開ける。
両開きの扉が開かれた瞬間、心臓が握りつぶされる様な圧迫感と恐怖感がクルヴィスとフリッツを襲った。
ヘリッツは突然の覇気に青ざめ一歩後退する。
「行くぞ。案ずるな。私の後に続けば良い」
クルヴィスは強烈は覇気に動じる事なく扉の中を進んでいく。
それを見たヘリッツも震える足を思い切り叩き、騎士に頭を下げた後ち、クルヴィスの後をついていったのであった。
⭐︎
扉の先、部屋の中には長いテーブルが置いてあり、そこに6人の人物が座っている。
フリッツはそれが誰なのかすぐに気付き、息を呑む。
そして、一人一人に目を向けた。
まずは下座の向かって右にいる人物に目を向ける。
リリア・ノーベル。
最年少の最上位騎士。
白髪をまっすぐ下ろし、清楚という印象を与える見た目。
背筋がピンと張り、育ちの良さが伺える。
腰に一振りの剣を指しており、まっすぐ正面を向いて目を瞑っている。
フリッツよりも一回り以上年下でありながらその天才的な才覚で瞬く間に最上位騎士まで駆け上がった美しくも気高い女性、それがフリッツの抱いた感想であった。
次にリリアの隣りで座っている人物に目を向ける。
ラース・クルーエル。
金髪を目にかからない長さに切りそろえている。冷え切った目をしており、残忍な印象を与えてくる。
二振りの剣を腰に刺しているが、彼の剣故に普通ではなさそうに思えてしまう。
フリッツはラースの剣にまま向けていると視線を感じ顔を上げる。
そこにはラースが不適な笑みを浮かべており、その目に見つめられただけで、背筋が凍ってしまうほどの不気味さを感じ、思わず目を逸らす。
フリッツはそのままラースの隣りにいる人物に目を向けた。
ブラッドという名前の男性だ。
黒髪を左右に流し、後ろ髪は肩にかかるほどまで伸びている。肌が除く場所から消えない傷が顔を覗かせており、それが顔まで続いている。その傷だけで死戦を幾度となく乗り越えてきたのが分かる。背中の首切り包丁から血の匂いが漂ってきている様に感じる。獰猛な顔つきをしているのが特徴だ。
先ほどと同じ様に上から下まで観察していると再び視線を感じた。
嫌な予感を感じながらも視線を向けると、獲物を見つけた猛獣の様な視線を向けるブラッドと目が合う。
その瞳を見つめるだけで、自分が弱肉強食の弱肉になった気分を味わい急いで視線を変える。
今度は向かって左に目を向ける。
レイン・フロウ。
水色の髪を左右に分けており、爽やかな印象を与えてくれる。見た目や身なりなら気を遣ってあるのか綺麗な肌と高価そうな服に身を包んでいる。腰に一振りの剣を指しており、彼こそが騎士という感じがしてくる。
フリッツはレインがクルヴィスと自分に目を向けているのに気づくが、敵意と言った嫌な視線を感じないことにホッとしていた。
そこから一つ隣りに目を向ける。
フレア・ブレイズ。
ブレイズ家の当主であり、騎士団の顔とも言われるほどの美貌を持っている男性だ。腰の剣も人気は輝いて見える。時折見せる集中し切った顔は、同じ男でも見惚れてしまうほどのものであるらしい。
フレアもまたクルヴィスとフリッツに目を向けていた。
フレアはフリッツと目が合うと小さく微笑んで手を振ってくる。
フリッツはそれを目の当たりにして、頬を赤らめていた。
そして最後。
フィアリス・アストモス。
上座に座る彼は最年長であり、最上位騎士のまとめ役である。彼からは他のものとは一線を異なる別次元の雰囲気を感じていた。ツーブロに合わせたヘアスタイルをしていて、彫りの深い皺があり、褐色に近い肌色をしている。
フリッツはフィアリスに目を向けるが、フィアリスはテーブルに両肘をついて指を絡ませたまま微動だにしていない。
よく見ると怪訝そうに顔を顰めて黙っており、苛立ちを覚えている様に見える。
フリッツが最上位騎士に目を向けていると、クルヴィスが歩き出す。
フィアリスの背後を通り、一人用の椅子に腰掛ける。
フリッツは慌ててクルヴィスの隣に立つと、咳払いをして早速話し始める。
「この度は緊急招集に応じてくださりありがとうございます」
ここまで言い終わるとぶっきらぼうにしていたブラッドが表情を歪ませて口を開く。
「前置きはいい!何度もやってるからな。さっさと本題に入ってくれ!」
ブラッドはイライラしている様でフリッツに殺気を飛ばしている。
殺気に当てられ口を開けずにいると、今度はフレアが口を挟む。
「会議の場に殺気はいらないでしょう。あなたこそ、良い加減場を乱すのはやめて頂きたい」
フレアの言葉を聞いてブラッドはゆっくりと立ち上がる。
頭から血管を浮かせ、顔を歪ませている。
「言いたいことはそれだけか?」
ブラッドは背中の首切り包丁に手を伸ばす。
それを見てフレアも腰の剣に手を伸ばしたところで、部屋全体に響き渡る様な鋭い音が響き渡った。
フリッツは耳を塞ぎ、その発生源に目を向けた。
フリッツの視線の先。
その目に映っていたのは爪でテーブルを弾いたフィアリスであった。
一瞬で静寂が辺りを包み込む。
ただ爪でテーブルを弾いただけ。
テーブルに傷はない。
なのに響き渡る様な、耳を塞いでしまうほどの音が鳴ったことにフリッツは困惑していた。
「国王の御前であるぞ」
フィアリスはただ一言、その様に発した。
すると、武器を抜きかけていたブラッドとフレアは手を戻し、おとなしくなる。
ブラッドは座り直しそっぽを向いた。
「いやはや、お前のスキルはそんなことも出来るのか」
クルヴィスが口を開くと同時に笑みを見せ、場を和ませる。
しかし、周りは静かさに包まれており、そんな雰囲気ではないと悟ると、クルヴィスも表情を変える。
「単刀直入に言う。魔人が現れた」
「「「「「「!!」」」」」」
クルヴィスが発すると同時に6人がそれぞれちがう反応を示しクルヴィスに目を向ける。
フィアリスは怪訝そうな表情を浮かべ、ブラッドは歓喜の表情を浮かべた。
フレアは目を見開いておりラースは冷酷な表情を変えずにいた。
レインはより真剣な表情に変わり、リリアは信じられないと言った表情を浮かべていた。
「その話は何処から?」
フィアリスが口を開く。
「トレストの街。深淵の森にて遭遇したとのことだ」
「魔人の生息など、ここ数百年確認出来ていないはずです。見間違いではありませんか?」
リリアは疑問を投げかける。
「面白れぇじゃねぇか」
ブラッドは高揚したように獰猛な笑みを浮かべる。
「トレストのギルドマスターからの報告だ。間違いないだろう」
「ギルドマスター?誰だそいつは?」
強い人にしか興味を示さないブラッドはギルドマスターでさえも興味を持たないようだ。
「『剛腕』のガロ。元Sランク冒険者ですよブラッドさん」
クルヴィスの代わりに答えるレイン。
「『剛腕』・・・あの老耄ジジイかよ。そんなん当てになんねぇっつーの」
ただ『剛腕』としか覚えていなかったようだ。
「私は信じますよ。昔世話になりましたし、嘘つく様な人ではないはずです」
「ふっ!あいつが言うならほんとだろうよ・・・」
再びそっぽを向いてしまうブラッド。
「詳しい話をお聞きしても?」
フレアの発言を聞いたクルヴィスはフリッツに指示を出す。
それを見ていたフリッツは持ってきていたファイルを開き、現在知り得る情報を共有し始めた。
⭐︎
全ての情報を一通り話し終わったフリッツは辺りを見回した。
誰もこの場を発さず、静寂に包まれている。
「ドラゴンワームを一撃で・・・」
弱々しいリリアの声が発せられる。
呟く様に嘆いた言葉が部屋全体に響き渡った。
「Sランクを一撃となれば疑いようが無い・・・・・・ですね」
レインもリリアに続く。
「以上の情報から調査部隊を設立し、派遣することなった。よって今回は調査部隊の編成と誰を送るのかについて話し合いたい」
クルヴィスが本題を唱える。
「深淵の森の出入りを経験している私の意見ですが、編成は少数精鋭が良いと思われます」
レインが話し始める。
皆の視線がレインに集まる。
「少数か。確かに指定禁止区域。危険度が跳ね上がる故、実力者のみで攻略するのが得策と言えよう。しかし、聞けば未だに生態系の全てが分かっていない上に、深部に至っては未だ未踏ときた。情報不足の中少数精鋭は英断であるが、最善とはいかないはずだ」
フィアリスが指摘をする。
しかし、その返事を用意しているのかレインはフィアリスに目を向けて口を開く。
「確かに不安要素はたくさんあります。未踏の地に足を踏み入れる必要がありますし、そもそも生態系が変わってしまっている。万が一のことを考えるなら軍を送り込むべきだと思います。ただ・・・・・・ただ現状、軍は動かすべきではない」
その発言を聞いて、最上位騎士は一斉に顔を顰めた。
「だからこそ、最上位騎士と上位騎士数名で挑むのがよろしいかと思います」
最後まで言い終わると、最上位騎士の顔色が変わる。
その発言に皆不満を持っていると言った表情ではなかった。
「なるほど。それなら想定外の出来事が起きても個々で何とか出来るやもしれぬ。反対のものはいるか?」
フィアリスは視線を向けるが、手を挙げるもの、発言をするものはいなかった。
「なら、次に誰を派遣するのかを決めよう」
と言った瞬間であった。
勢いよく扉が開き、一人の騎士が姿を現す。
肩で息をしており、ただことではないことが分かる。
「おい、何いきなり入ってきてんだぁ・・・」
ブラッドが凄み、気圧される騎士。
「も、申し訳ございません。しかし、早急にお伝えしなければならない事態が起き・・・」
「よい。申してみよ」
クルヴィスが発言を許した。
流石に国王が許したとあってはブラッドも反論出来ない。
ブラッドは黙りこむ。
「はい!え、えっと、軍事国家ミリタリアが、大軍を率い向かってきております」
「「「「「「「!!」」」」」」」
この場にいる者全員に動揺が走った。
全員の頭の中には共通してある考えが浮かび上がる。
このタイミングで!!である。
「・・・・・・ふむ。だとしたら、そちらの対処を先に講じなければなりませんね」
レインが呟く。
「情報を詳しく」
フィアリスの目線が騎士に向けられる。
騎士はフィアリスの目力に後退しそうになるが、なんとか踏ん張り、口を開く。
「10万の軍がロウネスに侵攻しているとのことです」
その発言に動揺が走る。
「ロウネス?一体どう言うこと?」
リリアが呟く。
その様に考えるのも仕方の無いことであった。
ルイン王国の国境沿いには三つの領土に分かれていた。オルグラン、ファムタイル、ロウネスである。オルグランは最重要拠点として兵力を集中している。だからこそオルグランを避けるのは分かる話である。そして、ファムタイルは肥沃な土地が多く産業の点においてルイン王国は頼りとしている領土であった。一方ロウネスはファムタイルの逆で作物が育ちづらいうえ、治安も悪く、ミリタリアからは最も攻めづらい領土だとあった。だからこそ、疑問に感じていたのである。
「ロウネスは作物が育たない上に無法地帯となっている。兵力が低いとは言え、丘を越えなければ辿り着けないロウネスを狙うのは利口では無い・・・か」
レインも顎に手を添え、考え始める。
「普通に考えれば攻めるべきは肥沃な土地を保有しているファムタイル。ロウネスを攻めると見せかけて本命はファムタイルなのかもしれません」
フレアが自身の考えを述べる。
「だが、ファムタイルはオルグランと協力体制にあるはずだ。ファムタイルを攻めればオルグランが介入する」
先程まで怒りに満ちていたブラッドも真剣な表情で話を展開していた。
「つまり真の狙いはオルグランかもしれない・・・と?
レインはブラッドに訊き返す。
「それはまだ分からねぇ。ただ可能性があるって話だ」
ここで騎士からもう一つ情報が入る。
「後続の軍もあるとのことです。数は分かりませんが・・・・・・」
「先鋒と同じく10万規模の可能性がある以上、余り手をこまねいている暇はない」
フィアリスが話し始めた為、視線が集まる。
「こちらも早急に兵力を洗い出し、10万ほどの兵を先行させる。こちらも後続の軍を作り、不測の事態に対処できる様、準備する」
皆が納得したような表情を見せる。
それにより、黙って聞いていたクルヴィスが口を開く。
「まだ決めねばならない事は多いが、とりあえず、早急に出せる兵力を洗い出し、まずは先行させる。その間に策を練り、万全の状態で迎え撃つこととする」
「さて、となると魔人の調査はほんとに兵を出せなくなったな」
フィアリスが徐に口を開く。
そして、テーブルに両肘を乗せ、両手を組んでいる。その指を動かしながら、考えを巡らせていた。
「代替案として、近隣の冒険者ギルドからAランク以上の冒険者を集う手があります」
レインはフィアリスに提案する。
「それが良いだろう。では立候補はいるか?」
すると勢いよく立ち上がるものが一人いた。
「だったら俺が行くぜ。暇で腕が鈍ってたところだぁ。サクッと言って終わらせてくるぜ」
それはブラッドであった。
腕を回してアピールをしている。
しかし、それに反対するものがいた。
「お前では統率が取れないだろう。少数精鋭は連携が命だ。お前では身勝手に行動して周りを死なせるのが関の山だ」
「あぁ?なんだと?もっぺん言ってみろ?」
ブラッドとフレアは再び一触即発の雰囲気となる。
「何度でも言おう。お前では統率が取れず、仲間を見殺しにする為、この任は向いていない」
「てめぇ・・・・・・」
血管が額に浮き出て、今にも飛び掛からんとするブラッド。
しかし、再び爪の音が響き渡りブラッドとフレアの動きが止まる。
「静かにしろ。何度言えば分かる」
ブラッドとフレアはフィアリスの殺気に当てられ、気圧される。
フィアリスは続ける。
「レイン。推薦になるが私はお前にこの任を託したい。お前は深淵の森を我々の中で最も知っている。お前が適任だ」
「承りました」
レインは返事をする。
続いてフィアリスはブラッドに視線を変え口を開く。
「ブラッド。お前には先行する軍と共に最前線に出てもらいたい」
「ふっ、なんだ。そっちの方も面白そうじゃねーか。しゃーねぇ、今回はそれで手を打ってやるよ」
ブラッドは獰猛な笑みを浮かべる。
「フレア。お前を先行軍の大将に任命する。兵力が整い次第、軍を進めろ」
「かしこまりました」
「よし、では今日はここまでとする」
クルヴィスの言葉を最後に緊急会議が終了となった。
ただ一人。
その場にいたフリッツは後半から話に入れず、終始固まったままであった。
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