第58話 再会

 高校の入学式の日となった。

 志喜は川沿いの堤防を歩いていた。真新しいブレザーがどことなく、まだしっくりこない。四月だと言うのに、川から流れてくる風が冷たい。ベストをブレザーの中に着込んでいても、そう感じるのだ。これで靴擦れをしていたら気が滅入りそうだが、島から帰って来てから散歩がてらに慣らしておいてよかった。

 高校までの道順には、市内で一番大きな神社があり、志喜が歩いている堤防に程近かった。季節ともなれば、桜が満開となってその並木道はさぞかし愛でる人々で賑わうのであった。

「桜か」

 彼の足はそちらへ向いた。敷地に沿って居並ぶ桜の枝を見上げてゆっくりと歩いていた。

 四月初旬はまだ普通咲かない。しかし、ふと目を向けた先に、一枝だけ咲いている木があった。

 そして、それを見上げる一人。

 志喜は、ハッとした。

 ――えっ

 と思いながら早足で近づいた。間違うことなどない、見覚えのある、あの人の姿があった。その背中、肩の高さ、そして瑠璃色の髪。制服は登校する学校の女子のものだった。

 ――でも、人違いだったら

 歩みが止まった。その音に気付いてその女子が振り向いた。

「おはよう、都筑君」

 まぎれもないあおゆきだった。すっきりと晴れ渡るような、あの確信めいた声だった。志喜は、返す言葉が出なかった。

 さらには幹の向こうからひょっこりと顔を出す者も。

「シキー、おはよう」

 屈託のない笑顔、そして白いドレス姿のチコがいた。動物耳も尾も出してない。

「どうして……」

 志喜はハトに憑かれてもないのに豆鉄砲を喰らったような顔をした。彼の後ろから大きな声が届いた。

「おーい、キセツー。って何でいんの?」

 茅野だった。羽多が隣にいるだけではなく、スカート姿の小清水までいた。

「みんな……」

「何だキセツ、アホみたいな面して」

 志喜の呆けた顔を見て、早速茅野は口悪く挨拶する。

「ボクも同じ高校だったのだよ」

 すっかりだましてやったぞ、みたいな顔をしている小清水の飄々とした嫌みのない感じに志喜は再会を喜んでいると、足の甲を叩かれる感じがした。目線を下げる。一匹のコーギーがいた。

「迷い犬かな」

 つぶやく志喜に

「私のところで飼っているの」

 と羽多が答えた。

「そう。でも連れて来ちゃ……」

「そのね……このワンちゃんは……」

 何かもったいぶって言いにくそうな羽多の代わりに

「我を忘れたか」

 低音の声がコーギーの口元から聞こえた。

「そいつ、ふじだよ」

 小清水が答えた。

「ふじって……あのキツネ……はあ?」

 チコやあおゆきとの再会の喜びもひとしおに、驚きを隠せない志喜だった。

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