第49話 調伏
第一資料展示室。木造船が大小並べられたり、漁撈道具が所狭しと展示されたりしている。
その中央にあおゆきは立っていた。彼女一人の息遣いが室内に広がっている。
幽体が飛来して、あおゆきは応戦に剣を振るう。すると、それは翻り、木造船の物陰に隠れたり、薄暗い天井に身を潜めたりした。さすがのあおゆきでも気配を消しながらの物陰からの襲来が度々ともなれば堪える。
もう一度、剣を構える。
静まり返る館内。二階の音も聞こえない。
――どうやら、あっちは終わったようだな。ならば
踏み出そうとした瞬間。床を一定のリズムで突く音が近づいてきた。
自然そちらを見る。展示室入口に人影ができる。
志喜の姿が現れた。竹の棒を杖にして歩いてくる都筑志喜の姿が。
「都筑君、来てはダメだ」
室内に反響する声が終わるよりも早く、物影から幽体が飛び出して行った。その先は志喜である。
「間に合え」
あおゆきもダッシュを試みる。
志喜との距離が近づく。が、えらいことスピードを上げる幽体へ追いつかない。
「都筑君!」
志喜は杖にしていた竹の棒を構えた。剣道の構えである。
それを見た幽体は急停止をかけようとするが、
「遅い!」
志喜は左手だけで握ったまま幽体に胴を入れ、身体をひねり、力任せに横殴りの格好で壁にぶつけた。さらに幽体が動かないように、竹の両端を握り、できる限りの力で押さえつけた。それは幽体と触れ合うということ。頭痛が響く。徐々に力が入らなくなっていく。体が芯から冷えていく。眩惑が襲う。
「あおゆきさん!」
「都筑君!」
小舟の甲板に着地すると、一つ跳躍。剣を構え直す。
同時に懐から紙を一枚取り出し、志喜の拘束を何とか逃れようと身悶えする幽体の額に張った。それは人の形に切りそろえられた紙だった。
飛翔して来た勢いそのままに
「調伏!」
その紙人形目がけて、あおゆきは剣を突きたてた。
幽体が動きを止め、紙が青白く燃えだすと、幽体は溶けるように消えて行った。
押さえていた感触がなくなり、ふらっと力なく前かがみに崩れる。彼の身をあおゆきが支えた。
「あ……」
「何も言わなくていい。もう終わったから」
「そう……良かった」
志喜は幽体の邪気に当てられたせいで、意識を失くした。その卒倒する時に羽多の思い出風景が映像として見えた。
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