最強だけどほぼ全裸の絶対防御鎧で今日もダンジョンに引きこもる
明日川アソブ
ep-01 その伝説の名は〝純潔の魔女〟
地下一千層に及ぶ巨大迷宮――〝大深殿ルオ=ヴァルス〟
それは世界のどこよりも深く、広く、暗い。
幾つもの王朝が滅び、幾千の命が消えても、未だその全貌は明らかになっていない。
だが、その果てなき闇に挑み続ける者たちは後を絶たない。
一攫千金を夢見る者。世界に名を轟かす地位と名声を求める者。
己の限界を試す者。王の命令で派遣された精鋭部隊――
剣と魔法の世界に生きる者たちが、今日もまたこの無慈悲な迷宮へと挑み続けていた。
そんな彼らの間で、まことしやかに語られる、とある〝伝説〟があった。
「最奥部で裸の女に会ったら逃げろ」
「そいつは死神だ。見たら、跡形もなくケシズミとなるぞ――」
信じがたい話だ。だが、その証言は後を絶たない。
誰も正体を知らない。
だが語られる逸話はどれも、現実離れした〝伝説〟に彩られていた。
――一瞬で百体のアンデッドを殲滅。
――竜の息炎さえ、涼しげに受け流す。
――異世界の魔神を下僕に従え、服従させる。
そして何より、彼女の姿については、誰もが一様に語る。
「見たんだ……! まるで女神のように、艶めかしくて……」
「あれは、もはや鎧じゃない……そう……あれは………………!」
冒険者たちの間で、畏怖と崇敬の象徴となった、伝説中の伝説――
その存在を、人々はこう呼んだ。
〝純潔の魔女〟と――。
◇ ◇ ◇
「く、くそっ……もう、魔力が尽きるッ!」
〝大深殿ルオ=ヴァルス〟 第九十七層〝呪蝕の庭園〟。
毒霧が漂う瘴気の森に、轟く咆哮と炸裂音が響く。
ヴァルディニア王国公認パーティ〝ブラック・レイヴン〟
巷の冒険者の間でも有名な、幾多の修羅場をくぐり抜けてきた四人の上級冒険者パーティ。
しかしそんな歴戦の勇者である彼らは、今、壊滅の淵にあった。
迫りくるグレーターデーモン、計十体――
その召喚主は、かつて王国を裏切った邪教集団〝
彼の禁術により放たれた地獄の軍勢が、彼らを囲んだ。
「う、うわああああっ! やめ……やめろォッ!!」
双剣の使い手が、悪魔の一撃で両断される。
それを助けようとした僧侶の聖壁すら、ただの一撃で粉砕。
詠唱すらする間もなく、魔術師がデーモンの息吹に焼かれて黒焦げになった。
もはや、それは一方的な虐殺だった。
残るは、リーダーであるカインただひとり。
(……くそっ……! ここで、死ぬのか……)
膝をつき、肩で息をする。
全身が斬撃と火傷でボロボロだ。
目の前に迫る漆黒の巨体たち。引き裂かれた仲間の死体。
死が迫る音が、耳の奥で鼓動のように鳴っている。
「さあ、終わりの鐘を鳴らしてやろう」
アークメイジが、禍々しい詠唱を開始する。
最強の爆炎魔法――「〝テスタメント〟ッ!」
――だが。
爆音と共に放たれた全魔力の奔流が、突然、止まった。
……いや、違う。消えたのだ。
「……な、何……?」
次の瞬間、十体のグレーターデーモンが――何かに弾き飛ばされた。
光の刃が閃き、黒煙が走り、赤い肉塊が宙を舞う。
そして光が、降臨した。
「な、なんだ……!?」
立っていたのは、ひとりの少女だった。
全身に黄金の光をまとい、その肌は月光に濡れたように艶やかだった。
彼女は仮面――目元を隠す奇妙なマスクをつけており、表情は読めない。
だが、目を奪うのは顔ではない。
彼女の纏った、その鎧だった。
――鎧
……と、それを呼ぶのは憚られる。
それは、鎧というよりはアクセサリ。
いや、アクセサリすら危うい。
ただの小さな金属片の断片だった。
――四肢や肩は完全に露出している。
――胸元にはわずかに硬質のカップが覆っているが、それは乳首の先端だけをかろうじて隠しているに過ぎない。
――腰の布は紐のように細く、下腹部に貼りついた三角形のプレートは、もはや局部を最小限にしか隠せていない。
――尻に至っては、もはや防具どころか“なにもない”。
ぷりんとした臀部が、魔族の死屍累々の中でぬらぬらと光っている。
(――な、なんだ、この子は……!?)
カインは、意識が遠のきながらもその姿を見ていた。
裸の少女は、魔族の残党を次々と両断し、爆散する魔法を平然と弾き返す。
最後にはアークメイジの爆炎すら、その鎧で全反射した。
「な、な、馬鹿なっ……魔法が……効かないだと……!?」
魔法だけではない、
物理攻撃も。
あらゆるデバフも。
この(ほぼ)全裸の少女は、すべてを弾き返したのだ!
「ま、まさか……その……鎧は……ッ!」
アークメイジはワナワナ震えながら、目を見開く。
「き、旧世界を滅ぼしたと伝わる神の作りし伝説の魔導鎧……〝ヴァルミラックス〟……ほ、本当に……実在していたのかっ……!!!?」
次の瞬間、少女の剣が一閃した。
アークメイジの首が胴体から切り離されて暗闇に飛ぶ。
全てが終わった。
少女は、ひとつ溜息をついて呟いた。
「……ふぅ。いっちょあがり、っと」
(ほぼ)全裸の少女がそう言って振り返る。
「一足遅かったか……助けたかったんだけどな……」
転がっている〝ブラック・レイヴン〟の死体を見つめ、残念そうに溜息をつく。
「でも、見られなかったから……良かった。私の……この……カッコ」
その時。
「……お、お前は…………」
カインが虫の息で、彼女に話しかけた。
「…………え?」
ぎく、と身体が硬直する少女。
マスク越しに、カインの生き残った瞳と、視線が交錯した。
「いやややややあああああっ! 生きてたあああああ!!」
絶叫。
そして少女の顔が真っ赤に染まる。
「見た! 見られたっ!? 私の……このカッコウ……!!」
少女は慌てて、両手で胸と股間を慌てて隠そうとするが、肝心の鎧が少なすぎる。
隠す → ずれる → 見える → 必至に隠す → 盛大にはみ出す → 丸見え
「み、み、みみみみみ、見たっ!? 見たわねっ!? 私の……××××!!」
「…………見た」
「いあああああああっ! ダメダメダメダメ!! 変態っ!! バカーーー!!!」
泣き叫びながら、裸の少女はその場から全力で逃げ出した。
程よく膨らんだ胸が、ぷるんぶるんと揺れる。
艶めかしいお尻が、ぺちんぺちんと跳ねていた。
「…………な、なんだったんだ……」
カインは、あまりの出来事に呆然としたまま、意識を手放した。
その脳裏には、艶めかしい少女の(ほぼ)全裸のビキニアーマーの肢体が、焼き付いて離れなかった――。
〝純潔の魔女〟――本名、フィリアン・スパークス。
最強の絶対防御鎧〝ヴァルミラックス〟を纏い、それにより大深殿ルオ=ヴァルス最強の力を手に入れた少女。
だがその鎧は〝最小限の面積で局部を隠すのみ〟で〝しかも脱げない〟という、悪魔のような呪いが付与されていた。
その日、彼女の恥じらいが、また新たの伝説を生み出した。
〝純潔の魔女〟の伝説を――。
つづく
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