37 英雄たち、俺を品定めする
聖女メルティナのおかげで、俺に対する好意的な雰囲気が漂った。
つかみはOKらしい。
と、
「ほう、てめえが勇者か。噂は聞いてるぜ。【カウンター】とかいう妙な技を使うんだってな?」
のしのしという感じで、ガロウが巨体を揺らしながらやって来た。
確かガロウは虎の獣人だ。
身長は3メートル近くあって、威圧感がとんでもない。
普通の人間なら、こうして向き合っただけで縮み上がってしまうだろう。
ただ、俺には無敵の【カウンター】がある。
さすがに威圧感は受けるものの、『いざとなれば【カウンター】でどうにでもなるしな……』という安心感があるから、ビビらずに済んだ。
「ほう? 俺と向き合っても、まったく臆した様子がない、か。とりあえず度胸に関しちゃ、さすがは勇者ってところか」
ガロウが鼻を鳴らす。
「だが、実力はどうかな? 俺といっちょ組み合ってみねぇか? そう、宴の余興ってことでな」
「えっ、ここで?」
「余興だ、余興」
ガロウはニヤニヤしている。
「魔王を倒そうっていう勇者様が、たかが俺程度に負けてちゃ話にならないぜ?」
と、挑発のおまけつきだ。
「待て、ガロウ。ここは貴様の闘争心を満たすための場所ではないぞ」
レナが割って入った。
「私はこの宴の主催者の一人として、黙って見ているわけにはいかんな」
「レナ姫様か。たしかあんた――こいつに負けたんだってな」
今度はガロウがレナを挑発する。
「噂の姫騎士様も、案外大したことはないか」
「レナは、強い」
俺は思わず前に出た。
「知りもしないで侮辱するな」
「ほう? 自分に対する挑発より、この女に対しての挑発で怒るのか? なるほど、そういう男か……」
この空気だと、やり合うしかないか――?
「悪かった」
えっ?
「いや、俺は口が悪くて言葉が過ぎるところがある。無礼な物言いを詫びよう。この通り――悪かった」
いきなり頭を下げるガロウ。
嫌みな奴だと思ったけど、案外一本気というか――まあ、ゲーム本編通りの性格のようだ。
「いいんだ、頭を上げてくれ。ガロウ族長」
俺は彼に微笑みかけた。
「魔王とともに戦う仲間なんだ。遠慮は無用だよ」
「寛大な言葉、痛み入る――へへっ、気に入ったぜ、ジルダ」
おお、打ち解けてしまった。
俺はちょっと感動した。
「レナ姫、そなたにも無礼な物言いをしてしまった。済まなかった」
「構わぬ。それに私がジルダに負けたのは事実だ」
苦笑するレナ。
それから、ふんと鼻を鳴らし、
「ただし――いつまでも負けっぱなしでいるつもりはないぞ?」
「はは、お手柔らかにな」
今度は俺が苦笑した。
「ガロウはあっけなく矛を収めたが……やはり、勇者というには随分と細っこいように見えるぞ」
と、今度はドワーフのボルガ王がやって来た。
「がっはっは、筋肉が足りん、筋肉が!」
バシバシと俺の背中やら肩やらを叩くボルガ。
痛いんだが……。
こいつ、脳筋キャラなんだよな。
ガロウとちょっとキャラが被っている。
ただガロウはああ見えて、理性的な一面もあり、博識な知識人キャラでもある。
対するボルガは徹頭徹尾、脳筋というところが二人の決定的な違いである。
「ボルガ王、見た目で人を判断するのは早計です。ジルダの実力は、あなたが想像する力量を遥かに超えているかと」
今度はマルグリットが助け舟を出してくれた。
レナといい、優しいなぁ。
「ふん、口でなら何とでも言える! おい小僧、ワシの拳を受け止めてみせろ! それができたなら認めてやってもいいぞ!」
ボルガが丸太のような腕を振り上げた。
以前に戦った王国最強の【波濤騎士団】の力自慢ホッジの、さらに数倍はありそうなパワーを感じる。
「砕け散れ、小僧ぉぉぉぉぉっ! 【ブラストインパクト】!」
拳撃系の最強スキルが繰り出される。
ばしゅんっ!
「ほげぇぇぇぇぇっ!?」
俺の【カウンター】であっさり吹っ飛ばされるボルガ。
まあ、お約束だよな。
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