36 英雄たち、集結する

 魔王軍侵攻の予言日まで、あと五日。


 バレルオーグの王城――シャンデリアが輝く大広間に、各国の王侯貴族や騎士、魔術師など世界に名を馳せた猛者たちが集まっている。


 今日は魔王軍と戦うための決起集会の宴だった。


 ただ、その雰囲気は和やかな歓迎ムードとは言い難い。


 人類の存亡をかけた、対魔王軍同盟のはずなんだけど――。


 各国の思惑だったり、互いのパワーバランス、面子などなどが複雑に絡み合っているらしく、友好的な雰囲気が感じられなかった。


 各国バラバラといった様子なのだ。


 こんな状態で魔王軍との戦いは大丈夫なんだろうか、と不安になるほどだ。


 そんな俺の不安をあおるように、


「がっはっは! バレルオーグの酒は美味い! だがレナ姫よ、この国の要であるはずの勇者とやらはまだ来んのか? まさか魔王を前に怖気づいているわけではあるまいな!」


 巨大なジョッキを片手に豪快に笑うのは、ドワーフの『鋼鉄王』ボルガだ。


 ……いや、俺いるんだけど、ずっと。


「騒がしいですね、ドワーフ王」


 優雅にグラスを傾けていたエルフの美女が、露骨に不快そうな顔をした。


「王としての気品を忘れずにほしいものですわ。勇者様は思慮深い方だとお聞きしております。貴方のように、場所もわきまえず無闇に大声を張り上げたりはしないでしょう」


 彼女は『森の賢者』と称されるエルフの女王ルヴィノだ。


 ともにゲーム内ではSSRのキャラクターである。


「何を言うか、エルフの分際で!」

「短絡的なドワーフはすぐに怒鳴り、激高する……しかも語彙に乏しく知性の低さがにじみ出るような罵声ですわね。頭の中まで筋肉しかないのかしら」


 一触即発の二人だった。


 一般的なファンタジー作品の例にもれず、この世界でもエルフとドワーフは仲が悪い。


 それを少し離れた場所から見ている者たちも、ゲーム内で見たSSRキャラクター……名だたる英雄たちだ。


 燃えるたてがみを持つ獣人連合の族長ガロウ。


 東方最強の剣聖、三日月ミカヅキ


 白いローブをまとった聖女メルティナ。


「……なあ。俺、あの輪の中に入っていくのか? なんか、魔王軍と戦う前に、味方同士で戦争が始まりそうなんだが」


 俺はそんな光景を眺めながら、隣に座るレナとマルグリットに小声で話しかけた。


「当然だ、ジルダ。勇者である貴様は、この同盟の要なのだからな。まあ、前途多難なのは同意するが」


 レナがやれやれと肩をすくめる。


 一方、マルグリットは目を輝かせていた。


「すごいわ。あれがエルフの賢者の超魔力――それに魔力の波長も独特ね。ぜひ魔法体系について議論してみたいわ」


 うん、お前は仲良くやっていけそうだな。


 魔法の話題が弾みそうだし。


 俺にはそんな『盛り上がりそうな話題のネタ』はないけれど――。


「やるしかないか」


 俺は覚悟を決めて、SSR英雄たちの中に進み出た。


「――ジルダ様ですね?」


 俺から声をかけるより早く、聖女メルティナが話しかけてきた。


 癒し系の美貌に、思わずほっこりする。


「ど、どうも」


 俺は緊張気味だ。


「私には見えます。貴方様の内なる光と巨大な力が。それはこの世界をあまねく照らす希望の灯となるでしょう。あなたこそまさに世界を救う勇者様ですわ」


 おお、俺が何もしなくても勝手に株を爆上げしてくれている!


 ありがとう、聖女様。


「ほう……」

「聖女だけに、即座に勇者の素質を感じ取ったわけね」


 ドワーフ王とエルフの女王が同時に、感心したようにうなる。


「ふむ、あれが勇者か――」

「自然体だが全く好きがござらんな……」


 獣人族長ガロウと剣聖三日月も、俺を評価しているような雰囲気だ。


 不安だったけど、つかみはOKってことでよさそうだぞ。






〇読んでくださった方へのお願いm(_ _)m

☆☆☆をポチっと押して★★★にして応援していただけると、とても嬉しいです。

今後の執筆のモチベーションにもつながりますので、ぜひ応援よろしくお願いします~!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る