33 暗殺者の役目(ルシア視点)
「聞いたかい? 勇者ジルダ様が、今度は『赤き海魔』とかいう大海賊団を壊滅させたって話!」
「さすがは私たちの英雄だ!」
ルシアが王都の大通りを歩いていると、そんな声が聞こえてきた。
その話は彼女も知っている。
ジルダ、レナ、マルグリットの三人が中心となり、海洋連合王国を悩ませていた海賊団と戦い、頭領たちを捕縛したということだ。
三人とも活躍したようだが、人々の口に登るのはやはり勇者であるジルダの話が中心のようだった。
「ふん、またあいつの話……」
ルシアにはそれが面白くなかった。
最近はどこに行っても、ジルダ、ジルダ、ジルダ……だ。
「あたしだって対魔王軍の遊撃部隊で働いてるんだけどな……地味な仕事ばっかりで誰も褒めてくれない……」
はあ、とため息がもれた。
「待っていたぞ、ルシア。君にしか頼めない任務がある」
その日、ルシアは騎士団のカミーラ副団長に呼び出されていた。
「あたしに? 騎士団の仕事じゃないの?」
ルシアは怪訝な顔で聞き返す。
「公には動けないんだ。フォバル辺境伯の領地で、領民が姿を消す事件が相次いでいる。騎士団を送れば政治問題になりかねない。そこで君に事件の調査を依頼したい」
「表立っては動けない……暗殺者のあたしの出番、ってことだね」
「別に暗殺してくれと言っているわけじゃないからな」
カミーラが念を押す。
「とはいえ、様々な事情が推測される。場合によっては――」
その先の言葉を彼女は飲みこんだ。
つまり、辺境伯の暗殺も見据えた事態――ということだろう。
「勇者ジルダは正しき道の下で戦う――いわば、日の当たる場所で世界を救う者だ。しかし、世界には光の届かぬ闇もある」
「そこで戦うのがあたしの仕事ってわけね」
カミーラの言葉にうなずくルシア。
「いいよ。その任務はあたしがやる」
出立の日になり、ルシアは遊撃軍の宿舎から出た。
と、
「よう、ルシア。任務で出かけるんだって?」
そこでジルダから声をかけられた。
「噂で聞いたぞ。かなり大変な事態だって……俺も手伝おうか?」
「別に大変じゃないし。あんたの助けもいらない」
ルシアがジルダをにらむ。
それは彼女自身のプライドから出た言葉だったが、同時に、
(世界には光の届かぬ闇もある……だったよね、カミーラ)
そう、光の勇者であるジルダには、この話は触れさせない。
「なんだよ、仲間だから心配したのに」
「仲間……」
「ま、がんばれよ。俺も訓練をがんばるよ」
「……ふん」
ルシアは鼻を鳴らした。
去っていく彼の後ろ姿に、小さく微笑む。
「……ありがと」
フォバル領は豊かな土地だった。
街道は整備され、家々は手入れが行き届いている。
すれ違う領民たちは皆、笑顔を浮かべていた。
「一見、平和そのものって感じだね……」
ルシアはつぶやく。
が、その雰囲気にどこか作り物めいたものを感じるのも事実だった。
「領主の評判もいい……なのに、この胸のざわめきは何」
ルシアは眉を寄せた。
カミーラの言った通り、やはりこの街には『光の届かぬ闇』があるのか――。
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