27 マルグリットの新術式(マルグリット視点)

 結局、実験は夜通し行い、翌朝にいったんお開きとなった。


「今回計測できたデータをもとに、私なりに調べたいの。その結果を踏まえて、次の実験をしましょう」

「分かった。俺はその間、また騎士団の訓練場で自分を鍛えるよ」

「長い時間、協力してくれてありがとう」


 マルグリットが礼を言うと、ジルダが右手を差し出した。


「俺の方こそ。スキルのことを色々調べてもらってありがたいよ。ありがとうな、マルグリット」

「……! わ、私は自分にできることをしているだけ」


 彼女はジルダの手を握り返しながら、頬が熱くなるのを感じていた。


(どうしたんだろう、私……ジルダのこと、なんだか正視できない――)


 昨日感じたのと同じ、胸が疼く感覚――。


 マルグリットは戸惑いながら、ジルダと別れた。




 マルグリットは山積みの魔導書に埋もれるようにして、文献を調べていた。


 足りない。


 まだ足りない。


 知識が、足りない――。


 旺盛な知識欲が彼女を突き動かしている。


 その一方で、不安もまた今の彼女の原動力だった。


「魔王軍の使う魔法は、現代の魔法体系とは異なる未知のものが多い――とあるわ。いくら私たちの側に最強クラスの魔術師たちが結集しても、一筋縄でいく相手じゃない……」


 そう、天才と呼ばれるマルグリット・ヴァーラインを持ってしても。


 魔王軍はおそるべき敵だ。


 だからこそ、魔法のさらなる深淵を極めたい。


 同時に、切り札になるであろうジルダの【カウンター】について、より深い知識を得たいと思っていた。


 そのジルダは今ごろ騎士団で――おそらくレナを相手に戦闘訓練をしていることだろう。


「レナ殿下と……」


 あの絶世の美少女と彼が一緒に訓練しているシーンを思い浮かべると、なぜか胸の奥がざわめいた。


「この気持ちは、何……?」


 未知の感情だ。


 焦りとも不安ともつかない、不思議な感情。


「……と、書物に集中しなきゃ」


 マルグリットは慌てて意識を目の前の魔導書に戻した。




 三日後、マルグリットはジルダと一緒に研究棟の最上階にいた。


 先日、二人で実験をした場所だ。


「ここ数日で魔導書を調べた結果を報告するわ」


 マルグリットがジルダと向かい合う。


 わずか三日しか会っていなかったというのに、彼と再会したことで胸がときめいていた。


 自分でも驚くほど気持ちが高揚している。


 平たく言えば――『浮かれている』のだ。


(どうしたんだろう、私……なんなの、この感情は)


 戸惑いつつも、マルグリットは頭を切り替え、ジルダに報告を行う。


「あなたの【カウンター】は、リアルタイムで攻撃を反射するわけじゃない。一瞬のタイムラグがある」

「ああ、そういえば微妙に『溜め時間』みたいなものがあるような感じが――まあ、ほんのちょっとだけど」

「そう、一秒にも満たない時間。その間に、あなたのスキルは受けた攻撃のエネルギーを一度取り込み、再放出している」

「うーん、それって単なる反射とは違うのか」

「ただ跳ね返すだけなのと、吸収して再放出するのは、似たような現象でもやっぱり違うわ」


 マルグリットは言いながら、言葉に熱を込める。


「それを利用して、魔術師との連係攻撃が可能よ」

「連係攻撃……?」

「具体的には――そうね、実際に試してみましょうか」


 ごうっ……!


 マルグリットが杖を構え、全身から膨大な魔力を放出する。


「行くわよ、ジルダ。いつも通りに反射してみせて」

「いつも通りでいいのか?」


 と、ジルダ。


「何か、普段と違うことを試そうとしてるみたいだけど――」

「ええ。だけど、あなたは普段通りでいいの。私がそれに合わせた術式を使うから」


 言って、マルグリットは攻撃魔法を放った。


「【ライトニングジャベリン】!」


 雷の槍を生み出す魔法だ。


 大量の魔力を込めた雷の槍がジルダの直前で消滅する。


 次の瞬間には、再放出されるはずだ――。


「【ディストーション】!」


 その瞬間、マルグリットは二つ目の魔法を放った。


 空間をわずかに歪曲させる魔法――。


 それに合わせるようにジルダが先ほどの雷槍を反射する。


 ただし、前方の空間が歪んでいるため、いつものようにまっすぐ跳ね返すのではなく、斜めの方向へと飛んでいく――。


「な、なんだよ、これ……!?」

「あなたの前方の空間を歪めることで、反射した攻撃を任意の方向に飛ばす――反射攻撃のバリエーションよ」


 マルグリットが語った。


「単純に跳ね返すだけなら、相手にも読まれやすい。けれど、私の術式と組み合わせれば、予測不可能の方向に弾くことも可能よ」

「なるほど。反射攻撃の威力は変わらなくても、相手の予測を外すことで回避させなくするわけか」

「魔王軍は未知の術式を操る強敵ぞろいよ。だけど、私とあなたが力を合わせれば、もっと強くなれる――きっと勝てるはず」

「ああ、頼もしいよ、マルグリット」


 ジルダが微笑む。


 爽やかな笑顔に、心臓がとくんと鼓動を早めた。


「い、一緒にがんばりましょう」


 マルグリットは頬が熱くなるのを自覚しながら告げる。


 なぜか彼の顔を正視できなかった。


 甘いときめきが彼女の胸の中で渦を巻いていた――。





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