26 ときめきと実験(マルグリット視点)


 ごおうっ!


 マルグリットは火属性の攻撃魔法【ファイアボール】を放った。


 魔力出力は30%。


 ジルダはこれを【カウンター】であっさり跳ね返す。


「なるほど、反射された魔力にはまったく減衰が見られないわね」


 さらに50%や70%、100%の出力も試したが、やはり魔力の減衰は見られない。


「あなたの【カウンター】は魔法攻撃の威力をまったく減衰せず、跳ね返す。100の威力の攻撃なら、100の威力の反撃となって返ってくる。その攻撃の威力が高くても、低くても」


 マルグリットが解説する。


「なるほど、スキルテストってここまで細かくやるものなんだな」

「ふふ、まだまだやるわよ」


 彼女が微笑む。


「楽しそうだな、マルグリット」


 ジルダが言った。


「こういう実験、好きなんだな? 理系女子って感じだ」

「リケイ? よく分からない」

「ああ、こっちじゃそういう言葉はないのか」


 ジルダはまた分からない言葉を言った。


「とりあえず単一属性攻撃に対する反射実験は終わり。次は複合属性魔法を試すわ。休みたければ、いったん休息を取りましょう」

「いや、俺は疲れてないよ。マルグリットこそ大丈夫なのか? 魔法を連発しただろ」

「私も疲れてないわ」


 と、マルグリット。


「……気遣ってくれてありがとう」

「ん? そんなの、当たり前だろ」


 ジルダが微笑む。


 優しい笑顔だった。




 その後、ときどき休息を挟みつつ、半日にわたる実験を行った。


「ふう……さすがに魔力が尽きてきたわね」


 マルグリットが息をつく。


 実験は基本的に彼女が攻撃魔法を放ち、ジルダがそれを跳ね返す――という形式がほとんどのため、半日の間、攻撃魔法を使いっぱなしだった。


 学園でもトップクラスの魔力量を誇る彼女だが、さすがにこれだけ魔法を使うと疲労感がすさまじい。


「大丈夫か、マルグリット?」


 ジルダが声をかけた。


「ええ、興味深い時間を過ごすことができたわ。あなたは疲れてないの?」

「俺はなんともないよ。スキルを使っても、多少の集中力は消耗するけど、そこまでじゃないし……」


 と、ジルダ。


「少し休憩を取ったら、また続きをしましょう」

「えっ、まだやるのか!?」


 マルグリットが提案すると、ジルダは驚いたようだ。


「疲れてないんでしょう? まだ実験を続けられるわ」

「いや、俺はそうだけど……マルグリット、本当に平気なのか?」


 ジルダが彼女を気遣うように言った。


「さすがに心配だぞ」

「……優しいのね」

「普通だよ」


 ジルダが微笑む。


 さりげないが、ことあるごとに優しさを見せてくれる彼――。


 そんな彼を見ていると、自分の中に不思議な感情が湧き上がってくる。


「……あなたのスキルデータとは別に、不可解な現象が観測されているわ」

「不可解な現象?」

「ええ。あなたとこうして話していると、私の心拍数と体温が上昇する。魔力の消耗や高ぶりとは相関性がないの……謎の現象ね」

「はは、やっぱり理系女子だ」


 ジルダが爽やかに笑った。


 そのとたん、




 ――どくん。




 マルグリットの心音が鼓動を早める。


(この感じは……何?)


 戸惑いが強まった。


 ジルダを見ていると、胸がドキドキしてくる。


 ただ不快感はない。


 胸の中に広がる甘酸っぱい気持ちは、今までの人生で感じたことのない陶酔感を伴っていた。





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