16 初めての敗北(ゼオル視点)
SIDE ゼオル
「がはっ!」
ゼオルはまたも大きく吹き飛ばされ、地面にたたきつけられた。
「な、なんだ、こいつは……!」
素早く立ち上がるが、さすがのゼオルも戦慄していた。
先ほどの【残影六連】は絶対の自信を持って放った歩法だった。
それを苦も無く【カウンタ―】で合わされ、吹き飛ばされてしまった。
どれだけ強力な攻撃を放っても当てられない。
どれだけ圧倒的な身のこなしでも捉えられない。
ゼオルは超天才と呼ばれ、剣を始めてから敗れたことは一度もなかった。 あのレナとは一度だけ試合をしたことがあり、そのときは引き分けだった。
ただ、あのときの自分は成長途上だったのだ。
今戦えば勝てる――。
その自信がある。
だが、目の前にいるこの男は――。
(この俺が……あいつに勝つビジョンが見えない……!)
愕然とした。
こんなことは初めてだった。
「攻撃したら負ける、って言っただろ? お前は、俺には勝てないよ」
ジルダが言った。
あり得ない。
ゼオルは内心で即座に否定した。
自分は輝かしい才能にあふれた超天才騎士。
一方の彼は凡庸な中級騎士に過ぎない。
「なのに、なぜだ……っ!」
ギリギリと歯ぎしりをした。
「そろそろ降参したらどうだ?」
「黙れぇっ!」
ゼオルは怒鳴った。
「まだ――諦めないのか?」
淡々とたずねるジルダ。
その目を見た瞬間、ゼオルはゾッとなった。
彼の目には闘志も気迫も、何も浮かんでいなかった。
まるで道端の石ころでも見るような、無感動な瞳。
「なぜだ……なぜ、そんな目をする!?」
ゼオルはうめいた。
彼は剣を始めてから、負けたことがない。
レナとの戦いが唯一の引き分けであり、それ以外の勝負にはすべて勝ってきた。
勝つことが当たり前になっていた。
負けることなど考えられなかった。
だから、ジルダとの戦いの序盤で劣勢になったこと――あれは断じて『敗北』ではない、単に序盤で『劣勢』になっているだけだ――は大きなショックだった。
それでも、ゼオルはまだ折れていない。
これから巻き返し、必ず勝利してやると闘志をさらに燃やしていた。
にもかかわらず、相手のジルダは――。
ゼオルを敵とすら認めていないのか?
彼にとって自分は眼中にすらない存在なのか?
その認識は、何度かの『劣勢』以上に――圧倒的な屈辱と絶望をゼオルにもたらした。
ありえない!
ありえない!
そんなことはあってはならない!
「うあああああああああああああああああああああああああああああっ!」
絶叫と共にゼオルは突進する。
力が覚醒していくのを感じる。
そうだ、俺の力はこんなもんじゃない。
「我こそは勇者ゼオル! その真の力を今こそ!」
力が湧き上がる。
今なら、限界を超えることができるはずだ!
「【残影――」
ゼオルは超高速で左右にステップし、分身を生み出していく。
「十五連】!」
十五体の分身。
これが限界突破したゼオルの作り出せる分身の最大数である。
すなわち、これこそが彼の歩法の最終形態――!
「無駄だ」
そんなジルダの声が聞こえた……気がした。
次の瞬間、すさまじい衝撃とともにゼオルの剣は砕け散り、彼自身は今まで以上に大きく吹き飛ばされていた。
「はあ、はあ、はあ……」
とっさに受け身をとったため、大きなダメージはない。
が、それ以上にショックが大きすぎて、ゼオルは地面に大の字になったまま起き上がれなかった。
「か、勝てない――」
その気持ちが絶望感となり、ゼオルの胸に広がっていく。
「悪い、加減しきれなかった」
と、ジルダが近づいてきた。
「……加減? 加減しきれなかった――だと?」
ゼオルの絶望がさらに増した。
やはりジルダは自分との勝負に全力など出していないのだ。
それどころか、こちらが怪我をしないようにスキルを調整する余裕すらある。
ゼオルの戦いは、完全にジルダの手のひらの上――。
それを理解した瞬間、ゼオルの戦意は砕け散った。
見るも無残に、砕け散った。
「うううううううううううう……」
上下の歯が合わさり、ガチガチと鳴る。
もう、戦えない。
「お、俺の……」
ゼオルは震える声でうめいた。
「負け……だ……」
――超天才にして勇者ゼオルの敗北。
それはジルダの『王国最強』が確定した瞬間だった。
〇読んでくださった方へのお願いm(_ _)m
☆☆☆をポチっと押して★★★にして応援していただけると、とても嬉しいです。
今後の執筆のモチベーションにもつながりますので、ぜひ応援よろしくお願いします~!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます