11 暗殺者たちの世界(ルシア視点)
SIDE ルシア
そこは暗い路地裏だった。
周囲の建物の屋根が重ねり、昼間でも夜のような闇に包まれている。
その闇の中に二つのシルエットが浮かび上がる。
並の人間なら気配すら感じ取れず、突然二人が現れたように思えるだろう。
だが彼女――ルシアの暗殺者としての鋭敏な感覚は、最初から二人の存在を感知していた。
「暗殺をしくじったんだってな、ルシア」
「組織でナンバーワンのあんたでも失敗するんだ? いい気味」
ルシアと同じ暗殺組織に所属する二人が、そろって笑う。
巨漢の獣人武闘家、ヴォルフ。
毒使いの美女、ピリル。
いずれも組織ではトップクラスの暗殺者である。
「失敗したわけじゃない」
ルシアは二人をにらんだ。
猫耳をピコンと揺らしながら続ける。
「ただ、一筋縄ではいかない相手だからね。今は対象を観察し、研究している最中ってだけ。いずれ――殺す」
「どうだか? 噂じゃ、そのジルダって奴と仲良くなってるって聞いたぜ?」
「もしかして、暗殺者ルシアともあろう者が相手に惚れちゃったぁ? あはは」
嘲笑する二人。
ルシアは無言でナイフを抜いた。
「……!」
二人の顔がこわばる。
「あたしは暗殺者だ。ターゲットは殺す。確実に。絶対に」
それが彼女のプロ意識であり、誇りだった。
「疑うなら――それはあたしの誇りを汚すことと同義よ。その代償はあんたたちの命で払うことになる」
「お、おいおい、冗談だって」
「そう、怒らないでよ。ねえ?」
二人はジリジリと後ずさる。
次の瞬間、
どんっ!
ノーモーションでヴォルフが突進してきた。
完全に予測不能のタイミングで間合いを詰め、丸太のような腕で拳を繰り出す。
ヴォルフの必殺パターンだ。
「――バレバレだよ」
ルシアは猫獣人に特有のしなやかなバネを利用し、こちらもノーモーションで跳び上がった。
最小限の動きでヴォルフのパンチを避け、そのまま背後に回り込む――。
「させないわよぉ!」
視界に赤い霧が広がった。
毒使いピリルの毒霧だ。
「だからバレバレ」
ルシアは懐から煙玉を取り出し、地面にたたきつける。
広がる煙と風圧が、毒霧を吹き散らし、ピリルの方へと押しやる。
ばしゅっ!
ほぼ同時に彼女の放った二本の毒針が、その煙に紛れてヴォルフとピリルに突き刺さる。
すべてがあまりにも鮮やかで、まったく無駄がない芸術品のように完成された動きだった。
相手が一手打つ間に、こちらは二手も三手も打ち、手数と速度で圧倒する――。
これこそが暗殺者ルシアの真骨頂だ。
「ぐっ……」
二人は地面に倒れ、痙攣していた。
「まったく……あたしに挑むのは十年早いね。ほら解毒剤」
ルシアは二人の側にそれぞれ錠剤を置いた。
「そいつを飲めば、数時間で動けるようになる」
「……ってことは、数時間はこのままってことじゃねーか」
「すぐに効くやつ出してよ!」
抗議する二人。
「だーめ。あたしの誇りを傷つけた報いよ」
ルシアはフンと鼻を鳴らした。
「わ、悪かったって! お前の実力はよく分かった」
「伊達にあんたがナンバーワンじゃないよね。だから許してぇ」
「……そのまま反省してなさい」
言って、ルシアは去っていく。
組織のトップクラスの暗殺者たちでさえ、彼女の前には赤子も同然だ。
なのに、彼は――。
「ジルダって、やっぱりすごいんだな……」
二手三手先を読み、手数と速度で圧倒する――そんなルシアの暗殺術でさえ、彼にはすべて跳ね返され、完封されてしまった。
だが、ルシアは諦めない。
暗殺者としての誇りに懸けて、彼を必ず仕留める。
「さーて、今日はどんな作戦でいくかな……」
彼に会うために、ルシアは歩き出した。
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