Scene12:あいだ

 ──出席をとる担任の声が、やけに遠く響いた。


 名前が呼ばれても、返事のない生徒がぽつぽつと混じっている。


 最初は風邪でも流行っているのかと思った。でも違う。今朝の教室には、何かが“欠けている”。


 それも、生徒たちの誰もが――いや、教師ですら――その“欠け”に気づこうとしない。

 それが、異様だった。


 窓際の席で、翠がぼんやりと外を見ている。

 和真は所在なさげに鉛筆を弄びながら、何か言いたげに口を開きかけては、すぐに視線を落とした。


 ふたりの間には、目に見えない隔たりがあった。

 昨日までは、たしかに“寄り添って”いたはずなのに。


 (……まったく、)


 俺は小さくため息を吐く。


 あれだけ一緒にいたふたりの距離が、目に見えて離れていっている。

 まるで、静かに広がるガラスのヒビのように。


 最初の頃、俺はあの和真ってやつが苦手だった。

 敵意を隠さずに、露骨に俺を警戒してくるし、何より――翠の隣にいるのが、鬱陶しかった。


 でも、今のふたりを見ると、別の意味で怖くなる。

 このまま、バラバラになってしまいそうで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る