34.発進!ゴーカイザー!!!

気分を盛り上げる為か、軽快なBGMが鳴りながら上へ移動するゴーカイザーは、数十秒が経った後に森の中へ躍り出た。


こういう時、まずは周りを確認するのがセオリーだが、そんな事をしなくとも、敵はすぐ目の前にいた。


縦の大きさでこのゴーカイザーに匹敵する程の巨大浮遊戦艦が目の前に居座っていたからだ。


そして周りには複数の人型戦闘機が確認できる。


が、その大きさは思ったより小さい。


記憶同調で知ってはいたのだが…。


いや、やはりこのゴーカイザーが大きすぎるのだろう。


話で聞いた時には、同じレベルの大きさの巨大人型ロボットが複数攻めてきたと思っていたのだが、敵のロボットは大軍で攻めて来ただけであり、ゴーカイザーよりだいぶ小さかった。


恐らく目測で約30mほどだろうか。


まぁ大きいといえば普通に大きいが、ゴーカイザーにしたら子供サイズと言ったところだろうか。


前回のゴーカイザーは耐久力やスピードに難アリだったが、今回バージョンアップしたゴーカイザーはもう一回りも二回りも違う。


正直もう負ける気がしないくらいだ…、と言いたいが、やっぱり連戦とかはちょっとキツイかも。


やはりどうにかして相手のあの戦艦と人型ロボを手中に収めなければ話にならない。


あの戦艦から補給が出来れば尚良し。


「とりあえずあれから確保してみるか…」


俺は目を閉じて、ゴーカイザーとの感覚同調機能を起動した。


身体がふわりと宙に浮いた感覚が宿り、その後に身体がズシンと重くなった感覚がした。


この感覚が、ゴーカイザーとのシンクロ成功の合図だ。


そうして目を開けると、俺の視界と感覚は全てゴーカイザーと同じになり、ゴーカイザーの手足も思うように簡単に動かせる。


異世界の俺にとっては初の試運転だが、記憶同調機能で何度も体験している記憶を持っている為に、感動は少し薄い。


それに、敵が目の前にいる為に悠長な事もしていられない。


敵の巨大戦艦の砲塔が全て俺に向けられ、周りの宙に浮いた人型ロボットもライフルのような武器を構えて、少しづつ半円状にこちらを囲んできている。


いつ撃たれてもおかしくない緊張感に、俺は冷静に感覚を研ぎ澄ませて相手の動きを待つ。


ああ、この記憶同調ってすごいな。


今まで戦いとは無縁だった俺を、ここまで凄い人間にしてくれるのか。


────来る!!


俺はその巨体に似合わない速度でジャンプする。


眼下には相手の無数のビーム攻撃が、ゴーカイザーが元いた場所へと放たれていた。


「ロケットパンチ」


ドンッ!!!


空中に飛んだ俺は、戦艦の真上付近で左腕の剛腕を射出し、メインコンピューターがありそうな中央付近にめり込ませる。


もし船員があそこにいるなら即死だろう。


申し訳ない気持ちもあるが、こちらも侵略行為をされ、少なくない死者がいる。お互い様だろう。


あの惑星並の母艦が来るまでの時間もそれほど残っている訳でもない。


「ハッキング開始」


俺はその戦艦に刺さった剛腕から、特殊な電磁波を出し、ハッキングを試みる。


ハッキングのプログラムは基本的にアイルちゃんに任せている。


こちらは戦闘に集中しなくてはならない。


四方八方から人型戦闘機が向かってくる。


こちらも逃げる気は毛頭ない。


だが相手の機体を確保するには、破壊するように戦闘するのではダメだ。


残酷なようだが、上手く相手のパイロットだけを殺すよう立ち回らなくてはならない。


何度か相手の人型戦闘機と戦闘を行い、機体を確認したことがあるが、パイロット席は胸部の装甲にあり、機体を動かすエンジンはその後ろに備え付けられている。


パイロットだけを狙うというのもなかなか難しい。


だがAIシミュレーションによる訓練は一応していたため、エンジンを破壊しない程度にパイロット席だけを潰す力加減はできる自信がある。


左腕は無いが、右腕さえ残っていれば充分。


「行くぞ」


ダンッと地上を走り、とりあえず目の前から果敢に攻めてくる機体へ拳を叩きつける。


ゴシャッという耳障りな音と感触。


相手のこちらへ向かうエネルギーも考え、エンジンは吹き飛ばないように上手く拳を引く。


操縦席を潰した機体は、空中から自由落下し、地上で倒れた後動かなくなる。


爆発は無し、成功だ。


次々と向かってくる人型戦闘機に対し、俺は冷静にゴーカイザーを動かし、相手の操縦席のみを次々と潰していく。


グレードアップしたゴーカイザーの強さは凄まじく、とにかくスピードが早いのが長所である。


ただし、ここにはいないが敵の特殊個体も中々に素早いため、その時は新たに搭載した新モードを使用するしかないだろう。


10体目。


俺は難なく敵戦艦1艦と敵戦闘機10機を制圧した。


「…」


(思ったより呆気なかったな)


特殊個体が居なかったからだろう、最初の戦闘はまるでゲームのチュートリアルかのように簡単に終えてしまった。


地球に来た侵略者の先行部隊は、この戦艦含めて100艦…、そして人型戦闘機が1000機…。…あ、そういえば最初の出撃で旧バージョンのゴーカイザーで何機か倒してたっけ。


えぇっと…、たしか2艦と18機破壊したんだったか?んで今回のと合わせて…、残り97艦と…972機か………、多いな。


………………。


うーん…。


「アイルちゃん、戦艦のハッキングはどうかな?」


『そろそろ完了致します』


「戦艦の中はどう?敵兵はまだいる?」


『数十体ほど』


「まぁまぁ残ってるね…。まぁとりあえずそれは置いといて、その戦艦の動力、ゴーカイザーのエネルギーに使えそう?」


『エネルギー変換で多少は減りますが、十分補えそうです。エネルギーを減らさないよう、この戦艦が最初に放っていたビーム砲撃を、できるだけ撃たせずに戦うのが良さそうです』


「そうだね、初手で戦艦を狙うのが良さそうだ。…と、あれは援軍かな。切り札も使ってないし、ゴーカイザーはまだ動けそうだけど…。3艦か…。てことは人型戦闘機も30ぐらいで…。特殊個体がいると過程すれば…、温存する方が消耗が多いかな」


『切り札を使用し、一気に殲滅するのが最善かと』


「念の為他の援軍が来てないかを衛生カメラで確認しよう。………うん、一応動きは無いね。…はぁ」


まぁ…、正直これぐらいなら余裕で倒せるだろう。


そしてこの分だと、こいつらは本当にただの斥候であり、まさに偵察部隊な感じがする。


特殊個体も、強いと言うより素早いだけ。


それでも前バージョンのゴーカイザーは負けてしまったが、今なら確実に勝てると断言出来る。


だが、………………やはりこの先行部隊を乗っ取った所で、あの母艦が来たらどうしようもない感じがしてきた。


焼け石に水という言葉がピッタリと当てはまっている。


なんだか時間が経って冷静になってきた。


先程までテンションが高かったのが一息ついて、まだまだ余裕がある事で落ち着いてしまった。


そして冷えた頭でよく考えると、絶対勝てないという結論が頭の中で答えを出す。


たぶんさっきまではあの記憶同調で、あっちの焦った感情と余裕の無さから産まれた希望で、頭が混乱していたんだと思う。


無理だよこれ…。


それでもまぁ、時間さえあれば…、時間さえあればあの敵艦の部隊の素材を全て使い、グレートゴーカイザーとか作れれば、もしかしたら勝てる気はする。


技術力だけはあるし。


気はするのだが、…時間が無い。


敵母艦は数日後にはもう来てしまうだろう。


もう時間は残されていないのである。


ならばどうするか。


「………………ハッキングはもう終わったかな?やっぱりこれ全部倒してもジリ貧な気がするから、作戦変えよう。やっぱり最終的にあの惑星サイズの母艦が無理ゲーすぎる。この援軍倒したら一旦戻って、レドかリィラ…、…リィラはあれどうにか出来るのかな。うぅん…、レドなら確実にいけるでしょ。うん、レドを呼ぼう。それしか無理だ。この戦艦が100居た所で意味無い。おそらくあの母艦はこの惑星破壊出来るエネルギーがありそうだし、なによりあちらの方が圧倒的に戦力が残ってそう。ならば最も可能性がある方を選ぼう」


『了解です』


1度俺が元の世界に戻り、レドにどうにかしてもらうのが一番確実だ。いやというか絶対それでしか勝てない気がする。


あの惑星サイズの母艦を持った侵略者に狙われた時点でこの星はもう詰んでいたのだ。


だが異世界の俺を召喚した事で、盤面はひっくり返せるようになった。


たぶんレドなら優しいから助けてくれるはず。


顔の濃い俺は、賭けに勝利したのだ。


「…まぁでもやるせないな。せっかく格好いいこと言って出たのに、これじゃあ台無しだね。少しストレス解消といこう。アイルちゃん、とりあえずその船は機能停止に…。いや、残った敵兵が暴れたら面倒か。破壊していいよ」


『了解です。ハッキング完了致しましたので、自爆機能を起動させました。腕を戻します』


「了解」


ゴォーっと戻ってきた左腕を、慣れたように身体を動かしてくっつける。


既にシミュレーションの記憶はあるので慣れているだけだ。


爆発した戦艦を背に、俺は迫ってくる別の戦艦達を見ながら呟く。


「さて、【切り札】の実践といきますか…」

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