23.ヒーローと魔法少女の生い立ち

アキラがトンネル外の壁沿いに置いてあったバイクのもとまで歩くと、そこにはサクラとやんちーがバイクの横で座っていた。


「…おい、なんで逃げてねぇんだ?逃げろって言っただろ…」


アキラが頭を掻いて呆れながら聞くと、さくらは当然とばかりに。


「ヒーローは必ず勝ちますから」


とにっこり答えた。


「すまん。こいつ体力ねぇし、流石に俺もこの身体じゃあさくらを担ぐのも無理でな…」


やんちーが少し申し訳なさそうに呟く。


「そういう事か。まぁ倒せたから良かったが…」


「流石ヒーローです。私も次からは、もっと上手く戦えるように頑張ります!」


「そうだな…。あの規模の破壊力も頑張って制御してくれると助かる…」


「が、がんばります…」


「ふぅ、んじゃあとりあえずは待ちだな」


アキラはサクラ達からバイクを挟んで反対側の位置で、壁のコンクリートにもたれ掛かった。


「あれ?走らないんですか?」


「ああ、バイクの残りエネルギーが心許なくてな…、嬢ちゃんとこに行く前に、ヘリに乗ってた同僚に連絡しといたんだ。んでバイクの回収ついでに、俺達もヘリに乗ろうかと思ってな」


「なるほど。………あの、私もそっち行って良いですか?」


「ん?あ、ああ、別にいいが…」


「ありがとうございます」


そう言って近づいて来たさくらは、親父座りしているアキラの懐に座った。


「…………」


「…………」


「…………」


やんちーがそれをじと目で眺めたあと、やんちーも近づき、やんちーはアキラの目の前で跳ね、アキラの頭の上に乗っかった。


「…いやお前らなんで俺に座りに来たんだよ。普通横とかじゃねぇのか」


「安心感があるので」


「ここが1番高ぇところだからだ」


「…………はぁ」


アキラはなんともいえず、ため息をついた。


そしてコートのポケットからタバコの箱のようなものを出し、中から白いタバコのような棒を出して口に咥える。


「お、おい!子供が居る前だぞ!」


「んだよ欲しいのか?」


「要らねぇよ!!」


「さくらはいるか?」


「え!?私ですか!?」


「サクラはまだ中学生だぞ!!?」


「お前ら勘違いしてるっぽいから言っとくが、これはココアシガレットだ。タバコじゃねぇぞ」


「えっ、お菓子の方だったんですか!?あ、えっと、私は甘いのは苦手で…」


「そうか」


アキラはココアシガレットの入った箱を内ポケットにしまう。


「紛らわしいんだよ!!!ってかおっさんがお菓子咥えるな!!!」


やんちーは前足をぽすぽすとしてアキラの頭を叩く。


「うるせぇないいだろ別に。俺は甘党なんだよ」


アキラはジト目で海を眺めた。


「…そういえば、アキラさんはなんでヒーローに?」


サクラは気になっていることを質問し、それにアキラは嫌な顔をせずに答える。


「…あー、そうだな…、話せば長くなるが…、まぁ、簡単に言えば親父がベルト作って、それを俺に押し付けてきたのが始まりだ」


「それでヒーローになったんですか!?」


「ああ、まぁ、その後親父が怪人に殺されて…、一応親の仇でもあるから、怪人はできるだけ倒しとこうかなっていう…」


「なるほど…、…もしかして、怪人ってもっと昔から居たんですか?ニュースは最近でしたけど…」


「そうだな…、20年前、日本に隕石降ってきただろ」


「20年前…、私が産まれる前ですか?」


「あ、そうか、さくらが産まれる前か。まぁ昔降ってきた隕石を調べてた研究者が居てな。俺の親父も関わってたんだ」


「ほぇ〜…」


「んで、まぁその隕石の中に、映画とかでまぁよくいるエイリアンが居たらしくてな。あと変な機械とか色々」


「ひぇ。も、もしかしてそれがあの怪人達ですか?」


「いや、ちょっと違う。怪人はいわば、そのエイリアンの血で作った改造人間に近いな。んで変な機械は、親父が個人の趣味で作り替えて、今の形になった」


「なるほど…」


「あの怪人って半分エイリアンだったのかよ…」


「死んだ親父が言うには、研究中に研究者同士で派閥が生まれて仲違い。人類進化の慎重派と過激派で争った結果、慎重派の親父が負けて、俺にベルトが託された。だからまぁ俺は、慎重派の仇討ち兼過激派の後処理するヒーローになった訳だな」


「ヒーローにしては地味な肩書きなんですね…」


「…まぁな。最近までは表にそこまで出ねぇし、街で暴れるなんてこともほとんどなかったから揉み消せたらしいんだが、最近はなんか色んなとこに出てきやがるせいで情報統制も出来ねぇし、普通に被害が出るもんだから、注意喚起のために情報が解禁された訳だな」


「なるほど!凄いわかりやすいです!」


「そんな裏があったのか…」


やんちーもしみじみ呟く。


「んで、お前さんらはどういう立場なんだ?魔法少女?なんだよな?能力者とは違うのか」


「はい!能力者はよく分かりませんが、私は魔法少女ですね」


「能力者ってなんだ?」


やんちーが質問する。


「能力者は…、まぁ俺もよく分からんが、ここ数年ででてきたなんか固有能力使うスーパーパワー持ちだ。まぁそれより先に、お前らの話を聞かせてくれよ」


「わかりました!えっと、私は1年前位に、変な石を持ったやんちーが襲われてたので、成り行きで助けたら魔法少女になっちゃいました」


「成り行きで助けて魔法少女になったのか…」


「成り行きで助けて魔法少女になっちゃいました」


「ホマリアの輝石っつってな、妖精界の核なんだが、それをリッチに狙われて、守るために戦士を探してたんだ」


やんちーが追加の説明を始める。


「な、なるほど…?」


「それで、ホマリアの輝石は…」


バンッ!!!


やんちーが話していると、突然目の前に白い扉が現れた。


全員がビクッと肩を跳ねらせてしまう。


「…これもその、ホマリアなんたらの力か?」


「いや、違うが…」


「白いどこでもドアだ…」


各々突然現れた扉に驚き戸惑う。


白い扉はゆっくりと開くと─────。


「………あっ、目の前じゃん…、気まずっ…」


白髪を長く伸ばした小さい子供が素足で出てきた。


服はだぼだぼの大きい白地のTシャツ1枚で、中央にでかでかと【ニート】の文字が書いてある。


出てきた白髪子供は「ごほん」と咳払いをすると、腰に手を当て自己紹介を始めた。


「やぁやぁ諸君!!初めまして!!!私の名はリィラ・ヴィクトリー!!!よろしく!!!!」


目を閉じながら堂々と宣言するリィラ。


なぜか得意げな表情をしている。


バックの海からはザバーンッとゆっくり巨大な腕が生えてきた。



「………………」



「………………」



「………………」


アキラとサクラとやんちーは、目の前の意味不明な状況に呆然と口をぽかんと開けることしかできず、アキラが口に咥えていたココアシガレットもぽとりと落ちてしまった。



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